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『ミシェル』

エピソード12 それぞれの冒険


はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!

ミシェルはおよそ10分も、藪(やぶ)の中を走った。

頃合いだと思って振り返ると、やはり追っ手の姿は無かった。

「うまくいったわ」そう安堵(あんど)したのも束(つか)の間、

一面の森とうす暗さに、方向感覚を完全に失った自分に気づいた。

「まっすぐ走っても、まっすぐもどれば元の場所にもどれるはずだ」

と読んで敢行(かんこう)したが、

どの方角に歩けば元の場所にもどれるか、わからなくなってしまった。

さすがのミシェルも、泣きたくなってきた。

「パパー!」とさけぼうとして、あわてて口を押さえた。

自分の居場所を運転手にバラしてしまったら、全てが水の泡(あわ)となってしまう。

運転手があきらめて帰ったことを祈りながら、

ミシェルは元来た場所へと引き返した。元来た方角だとおぼしき方へと、歩いた。

30分ほど歩いて、ようやく林道へともどりついた。

いや、「もどった」かどうかは、わからない。

さっきとはまったく離れた場所に出てしまったかもしれないのだ。

辺りを見回しても、目印となるようなものは何も無かった。

泣いているわけにはいかない。とまどっているわけにはいかない。

次はキャロルを探しだし、助けてやらなければならない。



対するキャロルも、10分ほど夢中で走った。

10分も続けて走ったのは、キャロルにとって生まれてはじめてであった。

足はガクガクだった。心臓がはりさけそうだった。

顔は涙と鼻水でぐじゃぐじゃになり、保護者はどこにもいない。

振り回し続けたロッドの肩は、今にももげそうだ。

「どうしよう…」

キャロルには、「元来た場所にもどる」という知恵はなかった。

方角などとうの昔にわからなくなっているし、

そもそも姉との約束は、「向こうに走る」ということだけである。

キャロルは、自分にできることは何かと考えて、

「余計なことをしない」という以外に何もないと察した。

悪魔の棲家(すみか)みたいな針葉樹林(しんようじゅりん)のうす暗がりの中で、

しゃがみこんでひざを抱え、何かが起こるのをひたすら待ち続けた。



林道からキャロル側に入ったミシェルは、

さらに「まっすぐとおぼしき方角」へと歩いた。

キャロルを見つける手がかりは、およそそれしかない。

林道から奥へと分け入れば分け入るほど、方角の誤差(ごさ)が不安になってくるが、

自分の感覚を信じて歩くしかなかった。

なるべくまっすぐ歩いているつもりではあるが、

木の幹にぶつかるたびに迂回(うかい)せねばならないし、足腰はもうガクガクである。

市民公園をまっすぐ歩くのとはわけが違う。

やがて、徘徊時間は1時間にも達した。

体力が涸(か)れはてる前に、キャロルを助け出せるのだろうか…



キャロルはまだ、しくしくとひざを抱えていた。

「きっとここで死ぬのね」キャロルはそう思って、ますます悲しくなった。

黒く大きなカラスが、バサバサと頭上をたむろしている。

「カラスは、死んだわたしを食べるのかしら。」キャロルは身震いした。

弱りきったキャロルに、ささやく声があった。

「たかいたかい、してくれないかな?」ロッドである。

「え?」

「たかいたかい だよ。

 君も、パパによくやってもらっただろ?」

「どうして、たかいたかいなの??」

「そりゃもちろん、不安だからさ。

 こんな森の中で迷子になったら、僕だって不安でまいっちゃうよ。」

「そうなの?ぬいぐるみのクセに??」

キャロルは、楽しくなってきた。

「もぉ。しょうがない子ねぇ~。」

キャロルは落ち葉のうえに寝転がって、

ロッドのいうとおり、ロッドの体をぽーんぽーんと、頭上に放り投げた。



「そろそろ、キャロルの姿が見えてもいいはずなんだけど…」

ミシェルは休むことなく、ひるむことなく歩き続けた。

行く手をさえぎる、何万本目かの木を迂回(うかい)した瞬間、

ななめ前方に、きみょうなものを見た。

なにやらピンク色の物体が、

フライパンの目玉焼きみたいにぽんぽんと宙返りしている。

ダークトーンの森の中で、華やかなピンクはやたら目立つ。

「鳥…?かしら。」

ミシェルはついつい、そのきみょうな物体のほうへと舵(かじ)を切った。

「あれ?…ひょっとして…

 ロッド??ということは、キャロル!?」



『ミシェル』

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