エピソード10 『イエスの子らよ』
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- 2023年3月3日
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ランチは12時にはじまる。
毎日毎日、規則正しく12時にはじまるわ。
それはいいとして、
メニューまで、毎日毎日同じなわけ!?
私は、テーブルに並んだお皿を見て、げんなり。
「またオムレツなの?牛フィレのステーキは出てこないの?」
「あらあなた、知らないの?
修道院では、牛フィレなんて出てきやしないのよ。
何のために修道生活するか、知らないの?
『牛フィレよりもオムレツのほうが美味しい』って、
そういう味覚を身につけるために、来てんのよ。
ワインも出ないわ。同じ理由で、ね。」
「そうなの?どうして?」
「レディに牛フィレ肉やワインを差し出す男は、みんな悪魔だからよ。
牛フィレ肉大好きなまま大人になっちゃうと、
悪魔にホイホイついていっちゃうってわけ。
お金持ちの男についていくっていうことは、
『悪魔に魂を売る』っていうことよ。
それがイヤだから、あなたのお母様、あなたを修道院に預けたのよ。」
「それにしたって、
たまには牛フィレ食べたっていいんじゃない?」
「そういうわけにもいかないのよ。
修道院ではそもそも、お肉をまったく食べないの。お魚もね。」
「どうして!?」
「シー!静かにしゃべらなきゃ、また怒られるわよ!
『どうして?』っていうけど、
修道院の人たちからすれば、
『どうして肉なんか食べるの?』って話なのよ。
動物を殺して食べるなんて、そんなの残酷じゃない?
想像もしてみなさいよ?食用のために牛が殺されるところを。」
「………………。うっ!」私は、吐きそうになってしまった。
「でしょ?残酷なことしてんのよ、人間って。
アタシも修道院に来るまでは、そんなことぜんぜん考えなかったけどね。」
私は、目だけを泳がせてシスター・サラを探して、ちらっと眺めた。
何事もなかったように、朝と同じようにお上品に、オムレツを食べていた。
朝と同じように清楚な顔をしてて、隠れてあいびきするような人には見えなかった。
『イエスの子らよ』