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エピソード10 『全ての子供に教育を』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月14日
  • 読了時間: 3分

エピソード10

やはり躊躇なく、インターホンを押す。ドアは開いている。

予想外にも、返事は家中ではなく外から聞こえてきた。

よく見ていなくて気づかなかったが、

庭のガレージ屋根の下で、男性が俺に微笑みかけている。

庭のガレージ下なんかに、デスクを置き、パソコンを置き、仕事をしているらしい。

なんという開放感。日本では考えられない光景だ。

「はじめして。宗形です。

 ここ、山岳ツアーの申し込み、やってますよね?」

「ええ。ツアー会社のオフィスですよ。」

やはりそうだ。間違いない。


男性は、もちろん日本人だ。

40前後といったところだろうか。年齢はよくわからない。

長く伸びた髪を、後ろで1つに結っている。美容院など行かないのだろう。

穏やかそうな人である。安心した。

「俺、山岳トレッキングに参加したいんです。」

「えぇ。そうでしょうねぇ。

 でも、うちは他所よりやや高額ですよ?」

「え?」

俺は、予想外の言葉にやや失笑し、でもなぜか、妙な安心感を覚えた。

ここで良い。値段もプランも聞いていないが、半ばもう、決めていた。



彼は、値段が高い理由を、ちゃんと説明してくれた。

「山岳トレッキングは、普通は、どこの会社も同じプランを扱うんですよ。

 街のツアー会社は、窓口代行業務しか行ってないんです。

 だから、違う店で申し込んでも、同じ車に手配されることになったり(笑)

 でもうちは、こだわりを持って独自のプランを組んでいるんです。

 だから、ちょっと値段は高くなりますよ。

 その代わり、いくつかの村には、うちの会社専用の宿泊民家がありますよ。

 嫁が、村の住民と仲良くなって、家の建設を許してもらえたんです。」

その嫁さんが、お茶を運んできてくれた。

「うふふ。どうぞ。」

にこやかにお茶を置くと、遠巻きに俺らを見守った。

やはり、優しそうな人だった。当然、日本人だ。



俺は、本題に入ることにした。

「あの、トレッキングのコースって、いくつかあるんですよね?

 俺、小学校の無いような村に、訪れてみたいんです。」

「小学校の無い村…僻地好きなのかな?(笑)」

「いや、僻地好きってわけでもないんですが…

 小学校を、建てたいんですよ。提供してあげたいんです。」

「ホントに!?

 スゴいなぁ。面白いこと言うね!

 何か、NPO法人とかの人なんですか?」

「いえ。特に何の団体にも所属していません。

 個人です。仲間すら、居ません。」

「ほほお。じゃぁ、タイの役所に話を通したりは…」

「してないです。俺の計画なんて、誰一人、知りません。

 だから、お兄さんに助けてもらいたいんですよ。

 だから、日本人のツアー会社を選んだんです。」

「まいったなー!予想外の展開だねぇ。

 香里さん、小学校の無い村って、あったっけ?」

 奥さんは香里さんという名前らしい。ちなみに旦那さんは、利典さんという。

「北部地域に、小学校のない村はまだあるけど、

 トレッキング・ツアーで訪れる村の中には、無かったはずよ。」

「え、無いんですか!?」

あれ、いきなり暗礁に乗り上げやがった。


利典さんは、俺のほうに向き直る。

「でも君、別にトレッキングが主目的じゃないんだよね?

 小学校の無い村に行ければ、それで良いんでしょう?」

「ええ、まぁ。

 ただ、ついでに他の村も見れたら面白いかなとは、思ってたんですけど…。」

「じゃぁさ。プライベート・ツアーを組もうか?

 君の希望に沿ったコースを、君だけのためにガイドするんだよ。」

「そんなこと、出来るんですか!?」

「出来るけど…料金は跳ね上がるね(笑)

 普段6人の客で分担してるガイド代車代を、1人で負担するようなものだから。

 しかも君、日本語のガイドを御所望だよね?

 タイ人ガイドよりも、更に高くつくよ。申し訳ないけど。」

「お金の心配なら、要りません」

俺は、力強く言い切った。


『全ての子供に教育を』

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