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エピソード10 『沈黙のレジスタンス』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月7日
  • 読了時間: 2分

翌日の昼下がり、

僕はまた、デニーのところに行った。今日はチャゴスは来ていない。

「ついてこいよ。」

デニーはニヤニヤしながらそう言うと、

村のはずれの大きな岩まで歩いた。


「僕らの城?」僕は、懐かしいものを見上げながら言った。

これは、僕らが「城」と呼んでいた大きな岩倉だ。

この村の子供たちが代々増築してきて、今や小部屋が20もある。

「ここなんか、真っ先に親たちにバレちゃうよ!」

「そうだよ。だからイイんだ。

 まぁ、いいからついてこいよ。」

デニーは「城」に入っていった。ほかに子供たちはいなかった。

昔は常に、数人くらいは遊んでいたものだけど、

キノコ岩で遊ぶ子供自体が、減っているらしかった。


デニーは、「城」の広間を通り、その奥の、とある小部屋まで行った。

その小部屋の隅の隅、外光もほとんど届かないその端っこの地面に、

1mほどの大きな穴が、開けられていた!

「何これ!?昔は無かったよね!?」

「そうさ。オレが掘ったんだ。」

「どういうこと?」

「この『城』は、

 この村の人間にとって、あまりにも有名すぎる。

 だから、自分ちのガキが家出したとしても、

 今どきの親たちは、この城に逃げたとは疑わない。

 つまり、『盲点』ってヤツさ。ここは使える。

 で、城に4階を掘ることも考えたんだが、

 高いところに部屋を造ると、家具の運び込みができないんだよ。

 小さな本棚くらいは運べるけど、ベッドやテーブルはムリだ。

 でも、地下ならどうだ?

 下に下ろすなら、上に持ち上げるよりはずっと楽さ。

 だから、本格的なアジトを造るなら、地下のほうが良いと思った。

 それでオレは、この死角の死角を選んで、掘りはじめた。」

やっぱりすごい!頭のキレは健在だ!

「ついてこいよ。降りよう。」

デニーは、更なる暗闇に備えて、ランプに火を灯した。


穴は階段状に掘り下げられていて、

地下には6畳ほどの小部屋が、設けられていた。

「すごい!ここなら誰にもバレないね!」

「へへ。驚くのはまだ早いぜ?」

デニーは、ランプを部屋の奥の地面にかざした。

なんと、そこには更に、

地中奥深くへと、穴が口を開けていた!

「まだあるの!?」僕は驚いた。

デニーが穴に向かって「わ!」っと叫ぶと、

そのこだまは、長い長い余韻を響かせた。

「どんだけ広いの!?全部デニーが掘ったの!?」

「はっはっは!違うよ。

 オレが、この小部屋を掘り進めてたらさ?

 いきなり、地盤沈下が起きたんだ。焦ったぜ?足場が崩れ落ちんだからさ。

 そしたらコレが現れたってわけさ。

 あはは。アジト掘る手間、はぶけちまった!

 ついて来い。飛び降りる必要があるぞ。気をつけろ。」

僕はデニーについて、さらに下まで降りていった。

「うわーっ!!」

僕は、その目を疑った!



『沈黙のレジスタンス』

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