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エピソード10 『沖縄クロスロード』

エピソード10

夕方になると、

信悟さんは本当に、ユカたちを車に乗せてくれた。

ところどころで観光案内を挟みながら、はるばる東海岸まで、連れていってくれた。

大きな商業ビーチのそばに、ホテル・ニライカナイはあった。


首里城の城門みたいなゴージャスな玄関をくぐると、

中の建物もまた、テーマパークみたいに琉球っぽく彩られていた。

池の真ん中に鎮座するシーサーはとてもゴージャスで、

口からは水を吐き出していた。よくありそうなモニュメントだ。

ヒヨリは嬉しそうに、あちこちパシャパシャ写真を撮っていた。

この子はシーサーの生まれ変わりなんだ。きっと。


ガラスドアの前では、

制服姿のスタッフが2人、ユカたちに深々と頭を下げていた。

「いらっしゃいませ。めんそーれ!」

おじぎの角度もイントネーションも、ぴったり同じ。

名うてのフォークデュオみたいに、一糸乱れずユニゾンしている。

きっと、チーフの言いつけをしっかり守っているんだ。

…でも、

たかだか挨拶のために一日中ここに立ってるんだろうか?2人も?

そんなことに、人件費を使っているの?

年間600万円かな。800万円かな。



ポマードべったりなフロントのおじさんは、

ユカたちに部屋のカギを渡すと、さんぴん茶の1杯もジョークの1つも無しに、

ユカたちを奥のエレベーターに促した。

これがホテルのアタリマエな光景であることは、わかってはいたけど、

ゲストハウス・ニライカナイに訪れた後だと、ひどく味気なく感じられた。


ユカたちの部屋は6階の6022号室だった。部屋番号はどうでもいいけど。

部屋はとても広くて、ゲストハウス・ニライカナイのリビングよりも広かった。

冷蔵庫を開けると、コーラとウーロン茶が3本ずつ冷やされていた。

「1本200円です。無料ではありません!」とプラカードが置かれていた。

人件費の掛からないセルフサービスなのに、自販機よりも高い…

これがホテルのアタリマエな光景であることは、わかってはいたけど、

ゲストハウス・ニライカナイに訪れた後だと、ひどく卑しく感じられた。



窓の外は、約束どおりオーシャンビューだった。

でも、ホームページの写真ほど鮮やかな色はしていなかった。

関東の海よりは綺麗だけど、ホームページの写真ほどは綺麗じゃなかった。

そして、眼下のビーチはとても騒々しかった。

浜辺にはビーチハウスが無駄にたくさん並んでいて、

波打ち際には黄色い貸しボートが無駄にたくさん並んでいた。

右のビーチハウスと左のビーチハウスは、

それぞれ身勝手に、爆音で、ダンスミュージックを流していた。

半年前から計画練って、苦労してお金も貯めて、

はるばる沖縄まで来たっていうのに、

湘南のビーチと何ら変わらない…


ちょっとウンザリしてしまったけれど、ユカたちの第一目的はビーチなもんで。

水着に着替え、Tシャツを羽織り、ビーチに下りてみることにした。


実際にビーチを歩いてみると、さらにうんざりすることになる。

砂粒の数と同じくらいたくさん、カキ氷の白い容器が転がっているのだ。

思いのほか暑く、日差しも強いので、日陰に隠れたかった。

でも、人工ビーチたるや、木という木は綺麗に伐採されている。

そして、ビーチパラソルは1時間500円で貸し出されている。

たかだか「日陰」すら、お金で買わなくてはならないのかぁ。

信悟さんは、無料で3時間も涼ませてくれたのに。


ヒヨリは、細かいことなど気にせず、ビーチを楽しんでいる。

ビキニスカートをセクシーにたなびかせながら、

きゃーきゃーと波打ち際に突っ込んでいく。可愛い。

…あのコはいつまで3才児でいられるんだろう?羨ましい。


その甲高い声に釣られて、

海パン姿のエグザイルみたいな男たちが、ヒヨリに近寄っていく。

そして、話し掛けられる。

「どっから来たの?カワイイね!オレの腹筋、すごくね?

 その水着、CMのヤツじゃね?ビール飲む?」

話が支離滅裂すぎる。バカ過ぎる。ナンパ過ぎる。チューリップ愛で過ぎる。

ユカが駆けつけるまえにマリが駆けつけ、ヒヨリを救いだす。


マリが遮っても、それでもまだ続ける。

「友達もイケてんじゃん!ビール飲む?東京でしょ?

 今夜たまたまバーベキューやるんだけど、一緒にどう?運いいよキミたち!」

「バーベキューやりません。興味ないですから。どっか行ってください。」

マリは頼もしく、毅然とナンパを突っぱねる。

「あれ?バーベキュー好きっしょ?

 東京のギャルはバーベキュー誘えばイチコロなんだよ?」

「ギャルいのは山の手沿線のコたちだけです。

 私たち亀戸ですから。下町はギャルくないですから。」

無視しちゃえばいいのに。マリは優しすぎるのだ。

私たちは走って避難する。


これが観光ビーチのアタリマエな光景であることは、わかってはいたけど、

ゲストハウス・ニライカナイに訪れた後だと、ひどく愚かに感じられた。



すぐに部屋に戻って、そして1時間ほど仮眠した。

夜の7時を回り、お腹も減ったので、夕ご飯を食べにいくことに。

首里城門な玄関を出てみると、あたり一面、どこにも飲食店は見えない…

フロントに戻って尋ねてみると、

ホテルのレストランで食べるよう促される。

行ってみると、たかだかラーメンでも1,000円する!

わめいても仕方ないので、なるべくコスパの良いメニューを選んで、

とりあえずお腹を満たすことにした。


ユカたちは、ご飯を食べながら相談して、

明日の予約はキャンセルさせてもらうことにした。

このホテルに滞在してると、どんどんお金を持ってかれちゃう…

3ツ星ホテルや4ツ星ホテルは、

親と一緒のときだけにしといたほうがいいみたい。自分のお財布ではキツい。


フロントに行ってキャンセルのお願いをすると、

「前日キャンセルだから半額しか払い戻せない」と言われてしまった。

ホテルってそういうものなのね。

それでも、1人あたり2,000円も戻ってくるし、

明日はラーメンに1,000円も払わなくて済むでしょ。

だからやっぱり、キャンセルすることにした。



ポマードおじさんに、他の宿を紹介してくれとお願いしてみたけど、

系列店の高級ホテルしか、紹介しかしてくれない…

「ほかの、もっと安いホテルはありませんか?」と尋ねても、

「よく知らない」と突き返されてしまった。

そして、

「そちらのインターネット用パソコンで、ご自分で検索なさってください。」

と、100点の敬語で、でもつっけんどんに、ロビー隅のパソコンを指差した。

「インターネット 1時間100円」と書かれていた。また有料かぁ。

信悟さんは、無料でユカたちを島横断までして運んでくれたのに、

4ツ星ホテルは、ホテル情報の1つすら、教えてくれない。


ユカは、4ツ星ホテルというものに、まったくトキメかなくなってしまった。

「半額だろうが5,000円だろうが、4ツ星ホテルに価値を感じない」

そう言っていた三上先生の気持ちが、ようやくユカにも理解できた。

見栄えばかりカッコよくて、でも中身がスッカラカンなんだなぁ。すぐお金とるし。


『沖縄クロスロード』

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