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エピソード10 『真理の森へ』

エピソード10

昼食を終えると、車は再び走りだしました。

のどかで美しい町並みを10分も走ると、また停まります。

「着いたよ。

 ここが今日から、君の家さ。」

それは、郊外の大きなマンションでした。

ルネサンス建築ではないけれど、とても重厚な建物です。


トゥーリは私のキャリーバッグを持ち、

2階の角の部屋まで先導してくれました。

インターホンを押すと、

中から40歳くらいの女性が顔を出しました。

トゥーリはなにやらフィンランド語で、

トゥーリと私の紹介をしたようでした。

そして、ホームステイ先で間違いないことを確認すると、

私を彼女に引き渡し、家に帰っていきました。



「はじめまして!私は翔子です!」

私はひどく照れながらその女性に自己紹介をし、

今度は自分から、握手を求めました。

トゥーリの様子を見て、

私も少し、人なつこさを身に着けたほうが良いかなと感じたのです。

「ハイ、翔子!遠いところからようこそ♪

 私はカティ。そして後ろにいるのが…アンティよ。」

カティが体を傾けると、リビングのドアのそばに、男性がはにかんでいました。

カティもアンティも、優しそうな顔をしています。私はホっとしました。

…ホームステイというと、

グランドマザーがいて、両親が居て、子供と大きな犬が居て…

とにかく大家族をイメージしますが、

この家庭はそうではありませんでした。

カティとアンティ、40歳くらいの夫婦の二人暮らしです。子供はいないそうです。



カティは、私をリビングに招き入れると、

美味しいカフェオレを淹れてくれました。そして、手作りケーキ。

こうしてコーヒーと手作りスイーツで客人をもてなすのが、

フィンランドではおなじみなのだそうです。

日本人はファミレスでお茶をしたがりますが、

フィンランド人は家でお茶をするのです。


「こんなに大きなマンションに住めるなんて、

 アンティは高級稼ぎなんですね!」

私は、ケーキをほおばりながら話題を作りました。

「とんでもない!

 僕の給料なんて、日本人の大卒1年目くらいじゃないかな。

 カティと折半してるから、こんなマンション住めるんだよ。」

「大卒と同じ!?それはジョーク?」

「ジョークじゃないよ。恥ずかしながら。

 俺も、平均的なサラリーは稼げてはいるけれど、

 それにしたって、フィンランドは税金が高いんだよ。

 平均的なお給料の人でも、サラリーの50%くらいは持っていかれてしまう。

 でもだから、充実した社会福祉が実現できているわけさ。」

「50%?そんなに!?」

「そうだよ。日本は消費税と所得税を合わせても、20%程度だったかね。

 フィンランドは日本の2.5倍ということだね。」

「それで、生活がまわるんですか!?」

「回るよ。回ってるみたい。」

「フィンランドの物価って、日本と同じくらいですよね?むしろ高いくらい。

 マクドナルドのカフェオレ、日本より高いくらいでした。

 それなのに、どうして暮らしていけるの?

 日本人だったら、そんなお給料じゃ暮らしていけない…。」

「そうかな?

 暮らしていけないと思い込んでるだけなんじゃいかな?」

「え!?どういうこと?」

「フィンランド人が、サラリーの50%を税金で持っていかれても暮らせる理由は、

 『ぜいたくをしないから』なんだとおもうよ。 

 少なくとも、一般的な日本人よりは質素なんだろうとおもうな。

 そうだな。

 まず、俺たちフィンランド人は、

 外食をあまりしないよ。レストランはとても高いんだ。

 だからもっぱら、家でご飯を食べる。

 それに、ショッピングを趣味にする人はあまり多くないね。

 日曜日に街に買い物に行ったりはしないんだ。レジャースポットにもあまり行かない。」

「あ!」私は、日曜のヘルシンキがガラガラであったことを思い出した。

「日本人やフランス人は、娯楽や観光に忙しいよね?

 それと、旅行の頻度なんかも、

 日本人やフランス人よりずっと少ないんじゃないかな?

 フィンランドのホテルは高いしね。

 フィンランドは、

 レストランやホテルに限らず、

 日常生活にあまり必要のないぜいたく品は、かなり高額だね。

 ミルクやパンの値段は、日本とそう変わらないだろうけれど。

 結局さ?

 ミルクを毎日10セント安く買ったところで、

 そんなちっぽけな倹約は、月に1度もレストランでディナーをすれば、

 あっけなく吹き飛ぶよね。あまり意味のないことなんだよ。

 消費税が数%上がっても、大して騒いだりもしないよ。そもそも消費が少ないからね。

 それよりも、

 ショッピングを減らしたり外食や旅行を減らすことのほうが、

 ずっと出費を抑えることができる。

 外食やレジャーやショッピングを控えれば、

 10セントどころか、100ユーロか1000ユーロは減らせる。ジュウマンエン。

 日本人は、そのことに気づいていないんじゃないかな?

 それで、教育も医療もお金がかからないのだから、

 いくら俺らに子供がいるとしても、別に暮らしには困らないとおもうよ。

 ぜいたくは出来ないけれど、暮らしには困らない。

 オシャレな国って言われてるけど、バブリーじゃないよ。

 学校の教科書なんかも、毎年みんなで使いまわしてるしね。

 ぜいたくは出来ないけれど、暮らしには困らない。

 暮らしには困ってないけど、ぜいたくはしないんだ。

 それがフィンランドのお国柄じゃないかな。北欧はどこもそうだろうけれど。

 あとは、嫁さんもちゃんと稼いでくるしね。」

「あ、そう!カティも働いてるの?」

私はてっきり、専業主婦かと思っていました。

手作りケーキで客人をもてなすなんていうのは、専業主婦のイメージがあります。

「うふふ。私も働いてるわよ。

 普段平日のこの時間は、家にいたりはしないわ。

 フィンランドでは、ほとんどの夫婦が共働きよ。日本だって最近はそうでしょ?」

「えぇ、たしかに。

 でも、日本のOLは、手作りケーキなんかやらないんじゃないかな…」

「そりゃ、日本人は働きすぎなのよ!噂はかねがね聞いてるわ。

 もっと、私生活を大切にしたらいいのに…

 私たちフィンランド人も、週休2日がベースだけれど、

 かといって、夕方4時か5時にはもう、家に帰ってきてるわよ?

 そうして、プライベートの時間を大切にするの♪」


フィンランド人のほうがバランス感覚が良い。私は、そう思いました。


『真理の森へ』

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