エピソード11
オレっち、勇気を出して、ナナミに聞いてみた。
幸せな時間が終わっちゃうと思うけど、聞いてみた。
「ねぇ、夏川さん?
パンツ見えてるよ?いいの?」
「え!?見ないでよぉ!」
やっぱり、ナナミは、スカートのすそを両手で押さえて、
玉子回りみたいにピチっと体操座りした。
…あぁ、オレっちの至福のひとときが…!
ナナミは、
時々ぽつりぽつりと、
質問したり、呟いたりした。
オレっちは、質問に答えたり、相槌を打ったりした。
10分もすると、ナナミはまた、股がゆるんだ。
まぶしい純白パンツが、見えるようになった。
オレっちはまた、頭がクラクラした。
オレっちのほうから、質問してみた。
「夏川さんは、恋とかしてんの?」
「恋?恋ってよくわかんないなー。
…っていうか、夏川さんじゃなくて、ナナミでいいよー?」
「そっか。」
オレっちは、2つの話題に、一言で答えた。
「ねぇ、ナナミは、少女マンガとか、読まないの?」
少女マンガを読むなら、エッチなことが好きなはずだ。
ナナミのエッチ度がわかる。
「少女マンガ、あんまり読まないよ。恋ってわかんないもん。」
つまり、エッチじゃないんだ。エッチな情報を、仕入れてないんだ。
どうしよう。
マサキとアネキみたいに、エッチな関係になるのは、難しい。
パンツ見るだけでも、イイかぁ。オレっち、充分幸せ。
「好きとか愛とか、感じないの?」
「…まだその話なのー?
ナナミ、好きとか愛とか、感じてないと思うなー。
別に、男の子と一緒にいたいとか、思わないよ。
それよりも、
木とか川とか眺めてるの、好きだなー。」
「そうだよ。
ナナミは、ここで何してんの?お父さんに叱られたの?」
「え?別に、叱られてないよ?」
「それじゃ、なんでここに来るの?」
「川を眺めたり、木を眺めたり、したいからだよー。」
「でも、そんなの、どこでも出来るよ?
なんで、この裏山なの?」
「ここだったら、誰も来ないじゃーん。
一人で静かに、眺めてたいんだもん。」
「ゴメン。オレっち、邪魔してたんだぁ。」
「平気だよ?ハルト君の場合、一人とあんまり変わらない感じだから。」
「感じ?」
「うん。
川とか木とか眺めてると、そのうち、
ナナミも自然の一部に溶け込んじゃう感じになるんだよ。
そうでしょ?」
「え!?そんなの感じたこと無いよ!
ナナミ、ドラッグでもやってんの?缶チューハイ飲んだの?」
「えー?そういうの飲まないよー!
ハルト君、川をじっくり眺めたこと、無いんじゃないのー?」
「いや、オレっち、しょっちゅう裏山来てるよ?」
「でも、ナナミみたいに、ぼーっと川を見つめたりは、しないでしょー?」
「…そういや、そうかも。」
オレっちは、
姿勢を正して、ナナミの横に体操座りした。
そんで、何も喋らないで、川をじーっと見つめることにした。
シャバシャバシャバ…と、川は、単調なせせらぎを繰り返していた。
時々、魚がチャプンと跳ねたりは、しなかった。
魚は、オレっちとナナミの邪魔はしたくなかったんだよ。
カァ、カァ、カァ、とカラスが鳴いた。
この辺は、カラスが多い。
…カラスは、どこで眠ってるんだ?
オレっちは、色々と、頭の中で想像をめぐらせ始めた。
…あー、イカンイカン!
川を見つめるんだった!
だんだん、
周りの物音が気にならなくなってきた。
川のせせらぎのシャバシャバシャバという音だけが、
やけに大きく響いてきた!
「え!?」
と思った。フシギな感じだった。
まだまだ、じーっと眺めていた。
次は、視覚に変化が起きた。
川の水面が、なんだか、上手く焦点が合わせられない。
水面のようであって、水面ではないようだった。
変な風景の中に、オレっちは佇んでいた。
…!?
更には、
水面がキラキラと光りはじめた!
…いや、違うなぁ。
水面が光ってるわけじゃなくて、
視界全体に、光のツブが煌いていた!!
あれ?
このツブツブって、今いきなり、世界に現れたのか?
それとも、オレっちが気付かなかっただけで、
今までもずーっと、空に漂っていたのか!?
たぶん、
今までもずーっと、空に漂っていたんだ!
ただ単に、オレっちが気付かなかっただけだ!
「何かをじーっと眺める」っていうのは、こういうことだったんだ!!
たしかに、
横を車が走っていたり、近所のおばちゃんに挨拶されたりすると、
ジャマになっちゃうよ。
ナナミは、この「感じ」を、知ってたんだ…!!
すげぇ!!!
『ハルトの初恋』
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