私と弟のルチアーノは、
学校から帰ってくると、海賊船の屋根に上って、楽器の練習をするようになったわ。
まだまだヘタっぴだけどね。
大丈夫。お店の中ではジャズの音楽を流してるから、私たちの音は気にならないわ。
私たちがパープー吹いてると、ますます大勢の人が、この店に気づくのよ。
上手いかヘタかはどうでもいいの。宣伝ってそういうものなのよ。やかましいもん勝ちなの。
でも、そのうち上手になってみせるわ。ヘタよりは上手いほうが良いもの。
始めてから3年間は、ヘタっぴでもしょうがないのよ。楽器ってそういうものなの。
名奏者が誕生するためには、誰かが騒音に耐えなきゃいけないのよ。
名奏者って、そうして誕生するの。覚えておいてね?
悔しいわ!ルチアーノのほうが、上達が速いの。
あの子のほうが少し早く始めたっていったって、
勉強もスポーツも、私よりぜんぜん出来ない子なのよ?
それなのになぜか、サックスだけは上達が速いの。
「どうなってんのよ?一体。」って尋ねたら、ヘンなこと言うのよ。
「だって僕、もう15年もサックス吹いてるんだからさ。」ってね。
は!?ルチアーノってまだ11歳よ!15年も吹いてるわけないじゃない!
ヘンな子なのよ。
ぜんぜんしゃべらないクセに、たまにしゃべったかと思ったら、ヘンなこと言うわ。
まぁ、悪い子じゃないけどね。悪い子じゃないわ。
でも、あの子の上達が速いおかげで、私も上達したわ。
だって、弟に負けるなんて悔しいじゃない?そりゃ必死にもなるわ。
私たちが船上で楽器の練習をしていると、
近寄ってきたのは、お客さんばかりじゃなかったわ。
地元の子らしき少年が、じーっと私のこと見てるの。
同い年くらいじゃないかしら。色の黒い、体格の良い男の子。きっと漁師の子よ。
あんまりにもしょっちゅうだから、「なぁに?」ってにらみをきかせたら、
おびえて逃げていっちゃったけどね。
『マイウェイ -迷路の町のカロリーナ-』
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