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エピソード12 『ミシェル2 -世界の果て-』

エピソード12

私はタクシーとさよならすると、

立派な城壁を残す旧市街の門をくぐる。

どこに行けばいいの?それすらわかんない。

いいえ、どこに行けばいいのかわかってたって意味ないわ。

迷路みたいで、どこがどこだかさっぱりわかんないの。

旧市街ってそういうところなのよ。アリの巣みたいに行き当たりばったりな地形なの。

私はきょろきょろしながら石畳の道を歩く。

お腹が減ったわ。節約も大事だけど、何か食べなきゃ。

私は道すがらのレストランを、窓からのぞく。中世の建物の立派な店。

テーブルにはえんじ色のクロスが掛かってて、ワイングラスが置いてある。

高そうだわ。

前を向き直ると、ふと誰かにぶつかる。忙しいわ、都会って…。

「おっと、気を付けて!」

男の人だけど、さっきのタクシーよりはガラは悪くない。

「あ、すみません!」私はとっさに呼び止める。

知り合いがいないんだもの。わらにでもすがらなきゃ。

「この辺でどこか、安い食べ物やさんはありませんか?」

「よそ者か。旧市街はどこも高いよ。観光しか稼ぐものが無いんだから。

 レストランじゃなくて、サンドイッチスタンドを利用したらいい。売店だな。

 それも下町よりは高いが、レストランよりはマシさ。

 あとは商店でフルーツでも買って食うかな。」

「そう。ありがとう。」

「ほら、あっちの角に見えるだろう?サンドイッチ屋が。」

私はお礼を言って、小走りでサンドイッチ屋を目指した。

チキンとレタスのサンドイッチを1つ買って、食べる。

休む間もなく、私は歩きはじめる。まだ落ち着かないのよ、何か。


私の町よりもクラシカルな建物が多いわ。

旧市街って、中世の街並みを残しているのよ。

このクツ屋なんて、中世の時代からずっとあるんじゃないの?そんな雰囲気。

私は、売り場でクツの皮を伸ばしているお爺さんをぼーっと眺める。

お爺さんは私に気づいて、そして愛想よく微笑む。

「いらっしゃい。クツをご所望かな?」

「いいえ、違うの。」

「そうか、じゃぁブーツか?娘さん、北の人だ。寒いやつだな。」

「いいえ、違うの。ごめんなさい、お買い物じゃないんです。

 あの、お爺さん、この風景って見たことありますか?」

私はクツ屋のおじいさんに、ポストカードを見せる。

おじいさんは、メガネを上にはずしてポストカードを眺める。

「ほほう。キレイな町じゃな。」

「そうよ。キレイな町なの。遠いところにあるのよ。」

「これはおそらく、エジプトの南のほうじゃな。

 わしの古い友人が、こんな町の絵を見せてくれたことがある。

 エジプトの中でも、アフリカ人らしいなりの人々が住む地域じゃよ。」

「やっぱりアフリカなのね!」

ちょっと気がめいっちゃう。途方もなく遠いわ。

「おじいさん、エジプトってどうやって行くの?」

「そりゃ飛行機に乗らんと。」

「そうよね、当然。

 エジプトまで飛行機、いくらくらいかしら?」

「明日の便か?20,000マルッカはするぞ。」

「20,000マルッカ!?私一文無しになっちゃう!」

「飛行機ってのは直前に買ったら高いんじゃよ。

 来月に行ったらいい。1ヵ月前に買えば5,000マルッカまで下がる。

 たぶんそれくらいで行けるじゃろう。」

「1ヵ月も待てないんです。今向かわなきゃ。」

「急ぎか。それならバスや列車で地道に南下するしかあるまい。」

「そうするわ。

 バスや列車はどこから出てるの?」

「旧市街の南の門の近くに、長距離バスの乗り場がある。」

「次のバスはいつ?」

「おいおい娘さん!そんなに急ぎか?」

「いえ、そういうわけでもないんだけど…。」

「じゃろう?少し落ち着きなされ。

 どうせ遠くに行くなら、楽しんだほうがいい。道中をな。

 次の出掛けは旅行だったらいいな。旅行はいい。」

「いえ、今も旅行なの。」

「そうか!それなら落ち着きなさい。

 今日はどこか、この町に泊まっていったらどうじゃ?

 それで一日ゆっくり観光する。旧市街をな。」

私は、1つ大きく息をした。

そうだわ。せっかく知らない町に来たのに、エンジョイしないのはもったいない。

レオだって、こんなふうにあちこち寄り道しながらさすらっているはずよ。

世界の果てを目指してたって、ずっと動き続けてるわけじゃない。

行く先々で、絵でも描いてるんでしょうし。

「そうするわ。お爺さんありがとう。

 ホテルはどこにあるのかしら?安いホテルはある?」

「安いホテルか。太っちょマルガリータの近くに、安いのが一軒ある。

 ちょっと古いが、かまわんか?」

「いいわ、なんでも。マルガリータが何て?」

 「ほっほっほ。この町の名所じゃよ。胴の太い旧市街の小屋が、

 そんな愛称で呼ばれとる。

 とりあえず太っちょマルガリータを目指しなさい。

 この町のモンは誰でも知っとる。路地を1ブロック歩くごとに尋ねるといい。

 ここでワシが説明したところで、辿りつきゃせんわ。複雑じゃからな。」

「ありがとう。行ってみるわ。」

「娘さん。走るなよ?

 太っちょマルガリータに着くまでの道のりも、旅の一部だ。」

「そうね!また忘れるところだったわ。

 じゃぁね、ありがとう。」

私は店を出ようとした。

「あ、娘さん、お待ちなさい。」

「え?」

「これをやろう。ワシからの餞別(せんべつ)じゃ。」

彼はそう微笑むと、私に何か、薄っぺらいものを手渡した。

「クツの中敷きじゃよ。クッション性の高いな。

 旅はすなわち歩くこと。負担の少ないクツなら、何よりの助けになる。」

「まぁ、どうもありがとう!」

私はお爺さんに抱きついて、精一杯にお礼を言った。

お買い物して、オマケに貰うならわかるわ。

でも私、何も買ってないのよ?それどころか、肩もみの1つもしてない。

むしろ質問ばっかりして、お爺さんに手間かけたのに。

イヤな人に出会ったり、イイ人に出会ったり、旅って色々なのね。


『ミシェル2 -世界の果て-』

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