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エピソード12 『自由の空へ』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月17日
  • 読了時間: 2分

エピソード12

私は、迷いに迷ったけれど、

アバンチュールを体験してみることにした。迷いに迷ったけど。

ここで受け入れなきゃ、ゆうこさんに話聞かせてもらった意味がないもの。


私が頷くと、

ゆうこさんは、亮くんに電話を入れた。

寝ていた亮くんを、無理やりたたき起こしたらしかった。

亮くんは、昨日の深夜から今日の夕方まで、18時間も徹夜勤務したあとだったらしい。

変則シフトの、サーバー管理の仕事をしているのだ。

眠い中わざわざ来てもらって、なんだか申し訳ない気持ちになった。

さっきまで野蛮人に見えていた亮くんは、急に好青年に見えはじめた。


ゆうこさんは、何から何まで気が利くらしい。

アマチュアのツアーミュージシャンを支援するために、

ライブカフェの2階に、キッチン・風呂完備の仮眠室をこしらえてあるのだ。

…部屋の半分は、機材で埋もれているけど…。

それでも、

ふかふかのベットが置いてあり、シーツも新しく清潔だった。


…書くのがとても恥ずかしく、ためらうのだけど、

 私はそこで、亮くんとセックスをした。

 一夜限りの恋なんて、自分には一生ないと思っていたのに。


彼はやはり、紳士であるようだった。

下着を脱がすタイミングから愛撫の順番から、挿入のタイミングまで、

常に、私のことを気遣ってくれていた。



思いがけないことが起きた。

それは、私の側の、オーガズムの瞬間だった。

その瞬間、私は、

まぶたの裏に、鮮明な映像を視たのだ。


映像の中の私は、

私の体からフっと抜け出し、鳥になっていた。

そして、ふわっと宙に舞い上がった。

そのまま、自由に空を飛びまわっていた。静岡の、のどかな景色の中を。

まるで、うちのベランダに屯(たむろ)している、ツバメたちのように…

憧れに手が届いた。とても気持ちの良い感覚だった。


「自由だ!」


私は、そう感じた。

生まれて初めて、そう感じた。


私が探し求めていた自由は、

他でもなく、最も遠ざけていたところにあった。

最も意外なところにあった。


『自由の空へ』

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