エピソード13 『人魚たちの償い』
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- 2023年3月28日
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エピソード13
真夜中。
みんなより一足早く眠った私は、真夜中に目が覚めてしまった。
再び眠ろうと試みたけれど、目は冴えてしまったので、
少し散歩でもしてみることにした。
洞穴から出ると、満天の星空が見えた。
見事な数の星々が、空一面、視界一面に、キラキラと瞬いていた。
「星って生きてるんだな」私はそんなことを思った。
夜の海もとても穏やかで、同じものが船を転覆させるだなんて、想像もつかなかった。
転覆と言えば…
私は人魚のことを思い出した。父が人魚を見たのも、岩場ではなかったか?
私は、父が人魚を見たというあたりまで、歩いてみた。
そしてやはり、波打ち際が淡く光っているのを目撃するのだった。
私が近づいているのを知ってか知らずか、
人魚は、鼻歌を歌っているのだった。
「人魚さん…ですか?」私は、3mほどの距離から声をかけてみた。
「ごきげんよう。体の調子はいかが?」
とてもくだけた雰囲気だ。父が話していたのと少し違う。
私が子供だからか、それとも、私たちと打ち解けたと思っているからか。
とても長い金色の髪が、水面にたゆたっている。
豊かな乳房はあらわになったままで、そこにためらいは感じられない。
もちろん、貝のブラジャーなど着けてはいなかった。
「寝床とお食事、ありがとう。」私は言った。
「お役に立てて、何より。
これでひとまず、命の危機は去ったでしょう。」
「そうだわ。
私たち、あなたに2度も命を助けてもらった。」
「そうとも限らないのです。」
「どういうこと?」
「命の危機は取り去ったけれど、
はたしてこれが、『助けた』ことになるのかどうか…」
「意味がわからないわ。」
「無人島で生き延びることは、溺れ死ぬことよりも幸せかしら?
それは、私たちにはなんとも言えないことなの。
辛いことも戸惑うことも、たくさんあるでしょうから。
『生き地獄』という言葉があるけれど、
いっそ死んでいたほうが良かったということも、人生にはありうることで…」
「大変なことが、待ち受けているの?」
「まぁ、どこで生きていたって大変ではあるのでしょうけど、
風変わりな人生になっていくであろうことは、予想できるわ。」
「もうなってるわ。」
「そうね。うふふ。
あなたたち、あんがい肝がすわっているのね。」
「どうかしら?よくわからない。
けど、家族がいるから、けっこう安心なの。
それと私、ここの海の色がとても好きなの。
海を眺めているだけでも、けっこう幸せを感じてしまうわ。」
「家族と海。それがあれば大丈夫?
それなら、なんとかなるかもしれないわ。」
「あとは、レモン味のジェレラートがあったらいいんだけど…」
「うふふ。甘いものだって欲しくなるわよね。
それに、やはりもう少し生活道具を充実させるべきだわ。
あなたの体調が戻るなら、
明日は、林を少し奥まで進んで、陸地を探検することをお勧めするわ。
ヤシ以外の植物を、見つけられるでしょう。
ころあいの寝床が見つかるなら、そっちに移っても良いでしょうしね。」
「ありがとう。やってみるわ。」
私は再び岩倉に戻って、朝までもう一眠りした。
『人魚たちの償い』