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エピソード13 『伝説の教師 -金八さんのその先に-』

エピソード13

「あの、ちょっと話が反れてしまうんですけど、

 いいですか?」

「いいよ。何でも話せよ。」

アベさんは、育ちざかりの高校生みたいに、

モグモグと大口でほおばっています。

「アベさん、

 新薬被験者のアルバイトをしているって…?」

「わはははは!

 それでオレのことが不審なのか!

 まぁそうだな。無理もない。

 治験なんて、めちゃくちゃアンダーグランドだからなぁ。」

「それって、危険なんじゃないんですか?」

「危険だよ。安全確認の取れてない薬を飲まされんだから。

 死ぬかもしれないし、大病に掛かるかもしれないし。

 でも、だからこそ、給料が良いんだよ。」

「高いお給料欲しさに、

 そんなアンダーグラウンドなこと、やるんですか?」

「アンダーグラウンドではあるが、恥ずかしい仕事とは思えねぇなぁ。」

「え?」

「だってそうだろう?

 誰かが実験台にならなきゃ、新しい薬は世に発表できないんだよ。

 薬がなくちゃ、みんな50で死んじゃうぜ。」

「…そうか…

 尊い仕事なんですね。」


アベさんは、コンビニ弁当のゴミを、

律儀に可燃ゴミと不燃ゴミに分けながら、続けます。

「仕事っつうか、

 厳密に言うと、金もらわないでやってるよ。誰にも話してないけど。」

「お金をもらわずに!?ボランティアですか!?」

「ボランティア…奉仕…まぁなんでもいいや。

 最初、この仕事を紹介されたときは金もらって被験したが、

 2回目からは貰ってないよ。それでもう十数回やってんな、オレ。」

「死ぬかもしれないことを、無報酬で、十数回も!?」

「そうだよ。あんまり言いたくねぇけどな。」

鼻くそをほじりながら、とんでもないことを言います!

「だって、死ぬかもしれないんですよ!?」

「そうだよ。別にオレ、いつ死んでもかまわねぇもんな。」

「え!アベさん、ウツ病なんですか!?」

「わはははは!

 ウツ病患者はこんなにぶよぶよ太らねぇよ!

 ウツなんてのも、オマエくらいの年頃に経験したが、もう卒業したなぁ。

 いいか?

 『死にたい』ってのと『死んでもかまわない』ってのは、別モンだよ。

 ぜんぜん別の心境だ。

 『死にたい』のは逃避だが、

 『死んでもかまわない』のは、達観ってヤツだろう。」

達観。

達観してるのか?この人。


「死ぬのは、怖くないんですか?」

「怖くないよ。痛いのはイヤだけどな。

 死そのものは、別に恐れちゃいない。」

顔色ひとつ変えません。本当に怖くないのか。

「だって、死んじゃったら無になっちゃうんですよ?

 何も考えられないし、何も感じられない。」

「あるいはそうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。」

「そうじゃないかも?」

「ああ。死後のことなんて、誰にもわからんよ。

 科学は死後の意識を否定しているが、それが真実とも限らない。

 絵本に描かれてるような釜ゆで地獄があるとは思えないが、

 何らかのカタチで、オレの意識は存在し続けるだろう。

 で、またすぐ生まれてくるんだ。めんどくせぇなぁ。へっへっへ。」

アベさんは、

可燃ゴミの入ったビニール袋を、向こうのゴミ箱に向かってバスケ・シュートする。

それが、上手いことゴミ箱に収まります。


「輪廻転生、ですか?」

「そういうこった。

 その辺のことは、オレの得意分野じゃないよ。ユタにでも聞いてこい。

 いや、ユタには近寄らないほうがいいよ。ヤツらは軒並み、うさん臭い。

 …で、

 『いつ死んでもかまわない』って思えてるなら、およそ何でも出来るよ。

 少なくとも、公務員だ大企業だ安定職にしがみつくようなことは、

 望まなくなってくる。ああいう職場に居ると、心が死んじまうからな。生き地獄だ。

 だからオレも、

 教職を離れた後は、いろいろとやったよ。

 いろいろ働いたし、いろいろ遊んだ。

 それでもう、これといってやりたいこともなくなった。

 幸い、貯金はある。オレらの世代はサギなくらいに給料貰ってんだ。

 とにかく、金には困ってない。

 だから、死と背中合わせなことやってんのさ。」

不燃ゴミの袋も、同じようにバスケ・シュートする。

「ヘヘ。オレ、バスケ部の顧問だったんだ。」

シュートの成功率以外は、全くバスケ部顧問に見えませんが…。


「お金に困ってないなら、

 命張ったりしないで、遊んでればいいのに…?

 そうじゃなくても、のんびり昼寝でもしてれば良いんじゃないですか?」

「そうか?

 人生なんて、常に何かをしてなきゃならないんだよ。そうだろ?

 んで、『何かする』って言ったって、

 ヒトってのはまずとりあえず、気が済むまで眠ってたいもんだ。

 かといって、何にも邪魔されずに8時間も眠りゃ、

 次はもう、逆に、寝転がってんのが苦痛になってくる。

 そして腹が減る。シャケご飯と味噌汁でも食いたいもんだ。

 かといって、何も邪魔されずにシャケ定食でも食べりゃ、

 次はもう、逆に食べるのが苦痛になってくる。

 すると、一日はまだ15時間も残ってるぜ?

 15時間、何もせずにボーっとしてるのなんて、苦痛でしょうがないよ。

 『怠けてること』のほうが、苦痛になっちゃうさ。

 だから、社会貢献するんだよ。そんだけだよ。

 『怠けてること』のほうが苦痛なんだからよ。エラくも何ともない。

 だからよ?

 『眠ってるほうが楽しい』って感じるうちは、眠ってりゃいい。

 『食べてるほうが楽しい』って感じるうちは、食べてりゃいい。

 『ファミコンしてるほうが楽しい』って感じるうちは、ファミコンしてりゃいい。

 思うぞんぶん、やりゃぁいいんだ。

 オレはもう、ファミコンしてたって大して面白くもねぇから、

 違うことやってんだよ。ファミコンを我慢してるわけじゃねぇんだ。飽きたんだ。」


「だからって、

 人体実験に身をささげるようなことして、辛くないんですか?

 『医療はそもそも、大衆をモルモットにしている』

 なんて、聞いたことがありますよ?」

「わははは!その通りだよ。

 医療だけじゃねぇぞ?

 政治も科学も経済も、大衆をモルモットに人体実験してるようなもんだよ。

 ものすごく残酷だよ。ヤツらには良心ってものが無いんだろう。

 でもよ?

 人生なんてのは、結局のところ、人体実験の場なのさ。

 誰かに実験されるか自分で実験するか、その違いがあるだけだよ。

 何が安全か、何が正しいか、そんなの、誰にもわかりやしないんだ。

 『安全です』って厚生省に認められたギョーザが、

 思わぬ病気を引き起こすことだって、ある。

 悪気がなくたって、100ぺん検査したって、そういうことはあるのさ。

 オマエにとっては無害でも、オレにとっては有害な場合だって、ある。

 すると、厚生省を責められやしない。

 結局、何が安全か、何が正しいかなんて、

 死ぬまで延々と、自分の体を使って実験し続けるしかないんだよ。」

「…深い…!!!」


『伝説の教師 -金八さんのその先に-』

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