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エピソード13 『沈黙のレジスタンス』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月7日
  • 読了時間: 2分

「ほらみろ!」

デニーの推理は完璧だった!

同胞たちは、飛び跳ねて喜んだ。

この地下通路に、飛び跳ねられるほどの高さは無いけどね。


しかしデニーは、そこで満足しなかった。

地下2階にも、あまり生活の匂いが感じられなかったからだ。

小部屋はいくつもあるし、教会や礼拝堂のような部屋があるが、

家具といえそうなものが、ぜんぜん無い。

階層は、まだあるに違いない。



デニー率いる発掘隊員は、36名に増えた。

みんな、目がイキイキとしていた。

生まれて初めて、自分が何か、デッカイことを果たそうとしている!

誰も知らなかった、神秘の扉をこじ開けようとしている!

その充実感と興奮で、キラキラとしていた。

みんなやる気に満ちていたが、

しかし、村の子供が一斉に消えると怪しまれるので、

デニーは子供たちに、ローテーションを命じた。

「代わる代わるやればいい。ゆっくりやればいい。確実にやればいい。」

デニーは一人、クールに落ち着いていた。


しかし、

デニーに残された猶予は、もう3ヶ月を切っていた。

15歳になってしまう。出稼ぎに駆り出されてしまう。

「デニー!のんびりやってる場合じゃないよ!

 早くしないと、デニーが15歳になっちゃう!

 大人になっちゃう!トンネル掘りに連れていかれちゃうよ!」

焦る僕をなだめすかすように、デニーは微笑みながら言った。

「いいんだよエニス。作業は急がなくていい。

 3ヶ月以上掛かったっていいんだ。」

「なんで?何か秘策があるってこと?」

「秘策か。それも考えれば出てくるかもしれないけど、

 オレのことはいいんだ。オレは15になったら、おとなしく出稼ぎに出る。」

「どうして!?全てが水の泡じゃないか!!」

「そんなことはないよ。まったく無駄じゃない。」

「何で!?何言ってるんだよ!」

「オレのためにならなくても、オマエたちのためになる。」

「デニー…!?」

「あっはっは!オレらしくないか?

 そうかもしれないよ。昔のオレならな、そんなこと言わなかった。

 でもさ、オレも成長したんだ。少しはな。

 家出や地下都市の件で、思い知ったんだ。

 自分の幸せのために考えても、何も浮かんでこなかったのに、

 オマエらや誰かのためにって考えたら、とたんにアイデアが浮かんできた。

 だから、それでいいんだよ。

 家出のアジト造りも、地下都市の告発プロジェクトも、

 オレのためのものじゃないんだ。オマエたちや、ほかの誰かのためのものさ。」

僕は、生まれて初めて人前で泣いた。涙が止まらなかった。



『沈黙のレジスタンス』

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