エピソード13
翌日、朝の8時に、トゥーリが迎えに来てくれました。
「迎えに来るのは今日までだぞ?
明日からは自分で学校に行くんだからね♪」
トゥーリの言うとおりです!トゥーリは私の付き人ではありません。
幸い、カティたちのマンションはバス通りにあり、
上手くバスに乗れば、私一人でも通学できそうでした。
トゥーリはこの日、私に降りかかる手続きの数々を、
何から何まで、手伝ってくれました。
学校に提出しなければならない書類は山ほどあり、
どの授業を選択するか決めるのも、膨大すぎて一苦労なのです。
携帯電話も加入しなければならないし、
大学病院で診療を受けるために、保険料の支払いもしなければなりません。
それらを1つ1つ、手伝ってくれるのです。
私はなんだか、申し訳なくなってしまいました。
それともやはり、トゥーリは私に下心があるのでしょうか…
「ハハっ!
チューターっていうのは、誰でも、誰に対しても、だいたいこんなモンだよ♪
大学はとても自由だけど、そのぶんとても、突き放されてるからねぇ。
生徒同士で助け合わないと、乗り切れないよ。
俺も入学当初に、見知らぬチューターに尽くしてもらって、えらく感動したんだ。
それで俺も、後輩たちを助けるようになったんだよ。」
私は、もう1つの可能性がひらめきました。
「ひょっとして、チューターって、お給料が出るの!?」
失礼かもしれない発言だけど、思い切って尋ねてみました。
「ハハっ!多少の手当ては出るけど、ほとんどボランティアみたいなもんだよ。
お金ほしいだけなら他のアルバイトでもしたほうが良いし、
女の子を口説きたいなら、バーにでも出向いたほうが早いさ。
警戒するのもわかるけど、フィンランド人ってのはたぶん、
翔子が思ってる以上に誠実だぜ?」
そのとおりなのです。たぶん。
私は、話を続けました。
「フィンランド人と日本人って、似てますよね。
日本人も穏やかで、それで、
優しく誠実だって言われています。」
「そうかな!?
穏やかは穏やかだけど、
優しく誠実かい!?日本人が?」
「え!」そこに異論が来るとは思わなかった…
「ハハっ!
俺も昔は、日本人は誠実だと思ってたよ。だから日本に行ったんだ。
でも、実際に日本で暮らしてみたら、幻滅しちゃったな。
日本人の優しさは、うわべだけなんだよね。
彼らは、優しい『フリ』が上手いんだ。
「フリ!?優しい『フリ』ですか!?」
「そうだよ。フリさ。演技さ。
あれ、会社の接客マニュアルが染み付いちゃってんだね。
人の顔を見たら、反射的に『はい、かしこまりました!』ってお辞儀するクセがついてるんだ。
返事は素直だけど、内心はイライラしてる。
だから、人の見てないところではてんで優しくない。誠実じゃない。
ネットの匿名掲示板とか眺めてると、ゾっとするよ。アメリカの高校生くらい、ガラが悪い。
あれが日本人の本性だよね。
アメリカの高校生はガラの悪さを隠さないけど、
日本人はガラの悪さを巧みに隠す。お辞儀と敬語と制服を駆使して、さ。
それが厄介なんだよ。世界中みんな、誠実だと騙されてる。」
「………。」私は、何も言い返せない。
「…フィンランド人は、違うよ?
フィンランドの中高生男子もそれなりにワルだけど、
大学に進学するような連中はたいてい、誠実でストイックだよ。
歓楽街より講堂を選ぶんだから、真面目さ。
政治家の汚職も、世界一少ないらしいよ。フィンランド。
それに、税金が20%を超えたって、誰も文句言わない。
政治家も市民も、優しいんだ。他人のために体張れるんだよ。
男性は優しいし女性は自立的。それがフィンランドだよ。」
『真理の森へ』
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