エピソード14 『イエスの子らよ』
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- 2023年3月3日
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私はときどき、
シスター・サラの姿を探したわ。
どうしても気になっちゃうの。チョコレート色の髪の彼女のこと。
でも、どこにもいないの。
ご飯を食べたと思ったら、すぐどこかに消えちゃうのよ。
彼女も人と群れるのがキライなのかしら。
それと、もう1つ人探しをするわ。
これはゲームみたいなもんでね、楽しいの。
あの穀物倉庫で出会ったおばあ様、彼女を探すの!
彼女はいつも、みんながいないような場所にいるのよ。
でもいつも同じ場所ってわけじゃないの。毎日ちがうの。
トイレ掃除してたり、鐘楼のからくり部屋のすす払いしてたり、するの。
おばあ様探しを楽しんでるおかげで、修道院の地理にもだいぶくわしくなったわ。
ある日の昼下がり、またおばあ様探しゲームをはじめたわ。
「おばあ様、今日はどこかしらね?」
午前中にも探したけど、トイレにもからくり部屋にも、いなかったのよね。
みんなが行きそうにない場所って、あとはどこかしら?
「わかった!図書室は!?」私ってば鋭いわ。
「図書室なんて、みんな行くじゃない。
毎日じゃなくたって、しょっちゅう行くわよ、みんな。」
「でもそれは、夕食後のことでしょ?
昼間の時間に図書室に行く人なんて、そうはいないんじゃない?」
「たしかに。マリアンヌあなた、鋭いわ。」
大正解!
今日はおばあ様、図書室で本のほこり払いをしてたわ。
それだけじゃないの!
シスター・サラまで、図書室にいたのよ!
彼女は中央テーブルに腰かけて、静かに読書をしていたわ。
気になるシスター・サラを横目でながめつつ、
私たちは、おばあ様のもとへ行ったわ。
「おばあ様、見ーぃつけた!」
私は子供っぽい笑顔で、でもひそひそ声であいさつした。
「おやおや、見つかってしもたか。
手伝うか?ハタキを持ってきなさい。
遊んどるだけだと、怒られるぞ。」
私たちはハタキを持ってきて、ふりふりしながらおしゃべりをした。
おばあ様は、今日もヘンなことを言うのよ。
「それにしても、額がうずくな。
おぬしらが来てから、いっそううずく。
何じゃろな、いったい。」
「何なのそれ?病気なの?おばあ様。」私、心配しちゃった。
「いや、天使様が何かを知らせたがっておるな。
オーラの大きい者がおる。」
「それ、アタシのことでしょ?金の柱立ってんのよ、今日も。」
「おぬしも強いがな。それとは別じゃろう。」
「ひょっとして…
シスター・サラじゃない!?」私は、彼女をこっそり指差して言った。
「う…!どうやらそうらしいな。
サラというのか?彼女は。」
「そうよ。まだお友達じゃないから、それ以外のことは知らないけど。」
「う…!」おばあ様は、めまいを起こしてくずれ落ちそうになったわ。
「大丈夫!?」
「あやつ…
マグダラのマリアの、子孫では!?」
「え!?おばあ様、何か視えるの!?」エルサが言ったわ。
「視える…!途方もない遺伝のフラクタルが…!」
「マグダラのマリアって、
イエス様のお気に入りだったお弟子さんでしょ?
誰と結婚したのかしら?マグダラのマリアは。聖書には書かれてなかったとおもうけど。」
エルサは聖書のお勉強も進んでるのね。
それより、おばあ様は、驚くべきことを言ったわ!!
「交わったのは…
…イエス様じゃ!!本当か?これは!」
「イエス様は結婚してないわ?」それは私でも知ってることよ。
「結婚はしていない。
しかし、マグダラとイエス様は、子を残したらしい…!
『マグダラに娘がいた』という伝承は、たしかに、あるんじゃ。
その娘の名前が…サラ。たしか、そうじゃった!」
おばあ様は、吸い込まれるようによたよたと、
シスター・サラに近寄っていったわ。
「おぬし…
まことに…イエス様の血を引きし者なのか…!?」
「……………。」
シスター・サラは、ゆっくりと本を閉じ、目を閉じた。
「……………。」
ひとつ大きな呼吸をすると、彼女は、ついに重たい口を開いた。
『イエスの子らよ』