エピソード14
…とは言え、
狭山市って言ったって、広い…
どこに行ったらイイもんか、わからなかったから、
とりあえず、
地図を見ながら、狭山駅に向かってみたんだよ。
狭山駅はまだ、終電を迎えていないらしかった。
駅の出入り口から漏れる光が、
駅前の一角だけを、やけに明るく、照らしていたよ。
電灯にタカるハエみたいに、
駅の灯りには、ヤンキーの集団がタカっていた。
ハルオは、思いがけないことを、言い出した!
「ちょっと、ムカイくんさぁ、
駅前で路上ライブでもやって、
駅前のハエどもを、お家に帰してやってくんないかなー?」
ヤツは、
自分も半分ヤンキーなクセして、
ヤンキーという人種が、ニガテなようだった。
僕は、
地元以外の駅で路上ライブをしたことが、ほとんど無かったから、
「コレは、イイ機会だなぁ」と、思った。
ヤンキーたちからは少し離れた場所に座り込み、
ギターケースを開け、チューニングをした。
好きな曲からテキトーに歌い始めてみると、
まず最初に、頭頂部のハゲたおっさんが、
「おぉー、路上ライブかー!イイねぇ♪若いねぇ♪」
などと、昔の自分を思い出すような目で、
僕らを眺めていった。
で、2番目に近寄って来たのが…
…例の、ヤンキーたちだった(笑)
「お兄さん、歌ウマいっすねぇ!
癒されちゃうなぁ、その声♪」
「…ハハハ、ありがとう…(汗)」
彼らは、
良く見ると、僕らよりも年下のようだった。
自分のほうが年上だとわかるや否や、
ハルオの態度が、一変した!
「ボウズ!良い子はもう、寝る時間だぞー?」
「いや、
オレら、これから集会だもん!」
…「集会」なんてコトバを、本当に使うモンなのか(笑)
彼らは、
ハルオの思惑とは裏腹に、
しばらく、僕らのそばに居座った。
僕は、何曲か歌ったのだけれど、
興味深いことに、ヤンキー風の彼らは、
僕の、反戦ソング的なモノに、最も熱く、食いついた!
…実は、
市川で歌うときにも、
「ヤンキー予備軍」ってカンジの風貌をした中3のメンズたちが、
よく、僕の「路上」を聴きに来ていた。
んで、彼らもまた、
反戦ソング的なモノを、最も好むのだった!
一体、ヤンキーという人種は、
実は、「1969学生運動の連中」の、生き残りなんだろうか?
「安田講堂立てこもり事件」なんてのをやらかした連中は、
結局のところ、
「既存体制の破壊」のために、実力行使に出ただけさ。
…そして、時は流れて、
僕の反戦ソングを好むヤンキーたちは、
奇しくも、1969世代のジュニアに当る世代なのだ…!
1969世代…いわゆる、「団塊世代」と言われる連中は、
腐った社会を打ち壊すために、世代全体で、立ち向かった。
それは、確かに、
1つのムーブメントを巻き起こした!
…ハズだった。
悲しいことに、
彼らの、「腐敗体制への抵抗」は、長続きは、しなかった…
そして、
ヤツらが憎んだ政治家や財界人と同じように、
ヤツらもまた、カネに、魂を売ってしまったのだ…
21世紀の社会を、常識ヅラで席巻している、
「原価の10倍を、定価とする」ヤクザのような値段設定は、
他でもなく、「団塊世代」たちが定着させた「新体制」なのだった…
…つまりさ?
安田講堂に立てこもったり、それを応援した連中たちは、
20年経ってみたら、
「ミイラ取りが、ミイラ」に、なってたんだよ…(笑)
だから、
彼らのジュニアたちが、厄介者の「ヤンキー」となって、
団塊世代が生み出した「新たな腐敗体制」に、牙を向くのさ!!
僕は、
市川駅の「路上」にタムロする、中3のヤンキー君たちに、
「ねぇ、革命を起こしたいんだけど、どうすればイイかなぁ?」
って、相談れたことがあるんだ。
…何しろ僕は、
「revolution!」という持ち歌があったからさ。
僕は彼らに、
1つだけ、教えてやったんだ。
「革命を起こされるときのことを考えてから、革命を起こそうぜ♪」
『トトロの森のけもの道』