top of page

エピソード14 『人魚たちの償い』

エピソード14

翌朝、

私は、昨夜人魚から聞いたことを、家族にくまなく伝えた。

「ちぇ!いいなぁタニアは。オレも人魚に会ってみたいぜ。」

「腰のくびればっかり見てるスケベなアントニーには、

 人魚は会ってくれないわ!」

「わっはっはっは!」

4人に、笑顔と心のゆとりが戻ってきた。



私たちは、ヤシの実で朝食を済ませると、

人魚の助言どおり、陸地の探検へとくりだした。

ヤシの林は300mほどで途切れ、さまざまな植物が見られるようになった。

まず喜んだのは、バナナだ。

これは、食べられることがすぐにわかった。

バナナは、高い木は10m以上にもなるけれど、

低い木は低く、父の背丈ほどの幼木でも、立派な果実を実らせる。

とても容易に、もぎ取ることができた。

その果実が驚くほど甘くおいしくて、私たちは目を真ん丸くした。

人が手間隙かけて作ったバナナよりも、野生のもののほうが美味しいなんて。

次に見つけたのは、アボカドだった。

スペインの市場で見かけるものより、ずいぶん大きい。

そして、ずっしりと濃い味をしていた。

「アボカドがあるなら、栄養面はかなり心強いわ。」看護師の母は言った。


池も発見した。

味見してみると、塩っぱくない。これなら水浴びに使える。

私たちは早速、裸になって水浴びをした。

父やアントニーに裸を見せるのは、数年ぶりにもなるけれど、

なぜかあまり気にならなかった。

死ととなり合わせだからか、大自然の中にいるからか、

裸を気にしている場合ではないように思えた。


ヤシの林には動物の陰を感じられなかったけれど、

雑多な雑木林の中だと、緊迫感をおぼえる。

丈の低い草も多く、視界が不明瞭なので、どこに何が潜んでいるかわからない。

キューキューとかキッキッキとか、妙な鳴き声も聞こえる。

ときどき、小動物の姿を実際に見かける。サルやリスの類か。

私たちはそれぞれ、棒切れを握りしめた。


洞穴も見つけた。

自然はいろんなことをやってのけるなと、感心せずにはいられない。

人魚は、陸地の洞穴に引っ越すのも悪くないと言っていたけれど、

こっちはコウモリがやかましく蚊がいるので、ねぐらには適さないと感じた。

人魚と会うのも、向こうのほうが都合が良いのだろうし。


迷子になる前に、今日は引き返すことにした。

バナナとアボカドと池を見つけただけでも、今日は大収穫だろう。

私たちは、幾つかのバナナとアボカドを抱えて、ねぐらへと引き返した。

私は、途中、ビーチで立ち止まり、

今日もまた、美しい海をゆっくりと眺めて過ごした。

赤い夕暮れの空をバックに、海鳥の群れが飛んでゆく。

あの子たち、人間なんて見たことあるのかしら?

3日目にもなるが、まったく飽きない。


私たちはその日の晩、

今度は4人全員で、人魚の岩場に出てみた。

しかし、しばらく待っても人魚は現れなかった。

やはり、スケベのアントニーがいるとだめなのだろうか。


『人魚たちの償い』

bottom of page