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エピソード14 『沈黙のレジスタンス』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月7日
  • 読了時間: 2分

2週間後、やはり地下3階は発見された。

しかし、地下3階もまた、寝泊りの部屋とは思えなかった。

食料庫や食堂であるらしかった。

デニーは、さらに階層があると確信したが、

かといって、発掘作業はそれで打ち切ると言った。

「あとは大人に任せたほうが良いだろう。」それが、デニーの見解だった。

探索隊たちも、そろそろ穴掘りに飽きていたしね。


僕は、「僕が引き継ぐ番だ!」と思った。

デニーはもう、引退でいい。あとはデニーは就活に専念すればいい。

僕は考えた。僕にできるやり方が、あるはずだ。

そう考えたら、簡単だった。

僕は何のために、セルチュクに武者修行に行ったんだっけ?

何のために、何を学んできたんだっけ?

僕は、西洋人のような礼儀正しさを学んできた。

学を身に着け、考古学を学んできた。現場監督のやり方を学んできた。


僕は、文書の作成に取り掛かった。

国を動かし、大人を動かし、お金を動かすためには、

説得力のある証拠を、理詰めで突きつけなければいけないのだ。

僕はそれを、ヒロト監督のもとで学んできた。

僕はまず、セルチュクで読んだ文献の一節を写し、

そして、ラーマ法王一派が掘り当てた新聞記事を、貼る。

地下2階、3階は僕らが掘り当てたから、

詳細の状況をつづることはできる。

しかし、4階以降が存在するなどと、証明することは出来るか?それが難しい。

文献には「2万人が暮らしていた」とあるが、それだけでは証拠にならない。

そのような広大な地下都市を、古代人が掘れるなど、現実味が乏しい。

ヒロト監督が言っていたように。専門家であればあるほど、そう感じるだろう。

僕は考えた。デニーみたいに考えた。

僕は、僕らの村の「城」がいかに壮大であるかを、引き合いに出すことにした。

長い年月をかけて代々引き継いでいくなら、子供でもこれほどの城が造れる。

同じ土壌、同じ習慣、同じ世代間協力を持って根気よく続ければ、

2万人をも収容する巨大地下都市を掘りあげることは、不可能とは言えない。

ガットキアの民ならば。

迫害を受けてから掘りはじめたとは、限らないのだ。

そう思い込むなら、話は行きづまる。

しかし、迫害のあった時期に、すでに広大な地下都市が掘られていたとしたら?

それも馬鹿げているが、ここガットキアなら、あり得る。

この村の無数の穴ぼこが、無数の秘密基地が、それを証明している。


僕はその文書を、直接国にではなく、ヒロト監督に提出した。

彼ならきっと、希望的観測に寄りながら、この文書を読んでくれる。

そしてその権威と知識によって、

より説得力のあるプレゼンテーションを行えるだろう。

僕の読みは当たった。僕の施策はうまくいった。



『沈黙のレジスタンス』

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