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エピソード15 『「おとぎの国」の歩き方』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月4日
  • 読了時間: 2分

夜が明けて、朝露が乾いたころ、

婆ちゃんはまた、朝ごはんを持ってきてくれた。

「よく眠れたか?おっほほ!」

「まぁまぁね。」僕は、伸びをしながら答えた。

「おっほほ!これでおぬしも、寝る場所には困らんな!

 ダライラマ様に感謝せぇ?」

「え、どういうこと?」

「野宿に免疫がついたじゃろ?

 野宿ちゅう選択肢があることを、おぬしは、知った。

 そういう人間は、村がなかろうとベッドの床が抜けていようと、

 悲しんだりはせん。困ったりもせん。仏の心でいられるなぁ。」

「あ!」

「『自分の龍を育てなさい。人は経験を積んで強くなる。』

 ブータンの古い格言じゃ。おっほほ!」

「知ってる!それ知ってる!」

「知っとるか!パゥオじゃの。おっほほ!」


「その格言、ダライラマが言ったの?ダライラマ1世とか?」

「誰が言い遺したんじゃろなぁ?

 ダライラマ様ではないじゃろう。もっと古い言葉だと思われる。

 ダライラマ様はまだ、悟りに至ってはおらん。

 ゲルク派の熱心な伝道師ではあるし、それを誠意盛んに行っておられるが、

 しかし仏陀(悟った者)には至っておらん。

 ダライラマ様が本当に仏教を…仏陀の教えを理解したなら、

 おのれもまた、青年時代のゴータマ・シッダールタのように、

 王という地位を捨ててでも、出家修行に繰り出すはずなのよ。

 真の悟りは、その先にしか無い。

 ダライラマ様はまだ、その旅をしてはいない。まだ道半ばなのよ。」

「ふーん。

 婆ちゃんは?婆ちゃんは旅してきたの?」

「わしは旅してきたよ。マカオからなぁ。じゃから英語もしゃべれる。」

「ひょっとして婆ちゃん、ダライラマより凄いんじゃないの!?

 ダライラマ『様』とか呼ばなくていいんじゃないの?

 奉ったり守ったり、しなくていいんじゃないの?」

「おっほほ!そんなのは知らん。

 自分が誰の上にいるか、誰の下にいるか、

 そんなことは考えんよ。気にせん。

 わしはあくまで、自分の仕事をするまでよ。」


ご飯を食べ終えると、僕は思い出したように言った。

「あのさ、婆ちゃん?

 僕、アジナに行きたいんだけどさ?

 バスとか通ってんのかな?」

「バスか?今はどうじゃろなぁ。通ったり通らなかったりする。」

「どれくらい遠いの?歩いて行けるの?」

「歩いて行けなくもない。」

「そうか。絶望的でもないね。」

「わしが、先導してやろうか?」

「婆ちゃんが?いいの?」

「かまわん。

 もう出発するか?」



『「おとぎの国」の歩き方』

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