エピソード15 『マイウェイ -迷路の町のカロリーナ-』
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- 2023年3月5日
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エピソード15
それから4年後、
私は、マカリオスと結婚したわ。
私、恋愛なんて興味なかったし、結婚にも興味なかったけど、
なんとなく、マカリオスと結婚しなきゃいけないような気がしたのよ。
無口でおどおどしてて、ちょっと頼りないけどね。
でも彼は優しくて、働き者で、
私がトランペットに打ち込みたくなったときも、それを肯定し、支えてくれたわ。
私、彼のおかげで音楽の学校にも通えたの。
私は学校で、トランペットのほかにピアノも学び、
おまけに、指揮者の勉強もしたわ。こんなに音楽にのめりこむとは思わなかった。
音楽で生計を立てたいと望む私に、
卒業時、たった1つだけ、誘いがあったわ。
それがなんと、
ヴェネチカの広場の、レストランのコンサートバンド。
私は、長い放蕩(ほうとう)の末に、生まれ故郷に戻ってきたの。
不思議なものね、運命って。
観光客のためのあのコンサート、私、憎んでいたのに。
そのコンサートが、ルチアーノに音楽を教え、
私にトランペットを与え、そして仕事を与え、故郷への渡し舟となった…
不思議なものね、運命って。
指揮者としての学のある私は、
演奏曲の決定にも、口をはさむことが許されたわ。
私は、考えに考えて、1つの曲を推したわ。
「マイウェイ」
フランク・シナトラの、大ヒット曲ね。
観光客なんていうのは、哲学しないのよ?普段はね。
今まで一度も哲学しなかった人たちが、哲学していくの。この曲を聴くときは。
「私の人生」とは、何だろうか?
『マイウェイ -迷路の町のカロリーナ-』