エピソード15 『全ての子供に教育を』
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- 2023年3月14日
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エピソード15
「もう歩けないだろう」と感じてから、1時間以上は歩いた。
不思議なものだ。人間の気力というのは、どういう構造なのだろう。
ある意味、人間には、限界などというものは存在しないのかもしれない。
人が、「限界だ」と口にするとき、
それはただ、「恐れ」という感情が、次の痛みから逃避したがっているだけだ。
本当はまだ、限界じゃない。
一理あるだろう?
「ほら、見えてきたよ。ロレン族の村だ。」
久しぶりに、利典さんが口を開いた。
その声で我に返ると、
俺たちの眼前には、たくましい川がどうどうと轟きながら流れていた。
そして、橋が架かっている。
その橋は、天然の橋だ。
恐らく、木の根っこだけで形成されている。
根っこを上手く誘導し、無数にからみつかせ、頑丈な橋を作り出している。
見事だった。
こんなに美しい橋は、およそ日本ではお目に掛かれないだろう!
俺は、最後のチカラを振り絞って、その橋を渡る。
眼下のせせらぎでは、
その村の住民と思われる子供らが、風呂代わりの水浴びをしている。
ついに、集落に到着した。
どれだけくたびれていたか、その説明は、もう割愛させてもらう。
思い出すだけでくたびれてしまう。
すでに日は落ちかけて暗くなっており、全景は把握できないが、
段々畑のような構造の、斜面に築かれた集落であるようだ。
家の数はやはり、20程度だろうか。やはり、高床式の木造だ。
あとのことは、もうよくわからない。電灯など1つも無いのだから。
やはりこの村でも、長老が笑顔で出迎えてくれたりはしない。
盛大な歓迎セレモニーがあったりは、しない。
ウルルンのような展開にはならない。
ノラ族の村のときとは違い、ここに訪れたのは俺だけだ。
おそらくここ数カ月でも俺だけだっただろう。珍しい来客であるはずだ。
それでも、村長が出てきて盛大な歓迎セレモニーが催されたりはしない。
これが現実だ。
俺が到着したことなど、およそ誰一人、気づいていないんじゃないのか。
いや、2~3人は気づいてくれていたが、特に何も、反応は示さない。
怒ってはいないが、喜んでもいない。遠巻きに眺めているだけだ。
怒っていないだけでも、一安心だ。
吠えられないだけでも、万々歳だ。
利典さんは俺を、手前の小屋に通した。
知人の家であるらしい。
なにやらわからない言葉で、状況説明をしてくれている。
状況を把握した奥さんは、
最低限の会釈だけを見せ、台所に消えていった。
夕食の支度をしてくれるらしい。
すぐに、すすけた臭いがしてきた。
カマドに火が入ったのだ。
当然だ。ガスコンロなど存在しない。
囲炉裏にも火が入る。居間が少し明るくなり、暖かくなってくる。
俺は、薄っぺらい織物の上に寝転がり、
リュックを枕に、しばし仮眠をさせてもらった。
ものの1分で、眠りに落ちていた。
『全ての子供に教育を』