エピソード16
パート練習は、
夕方頃に、一回お開きになっちゃった。
驚いたことに、
次は、夜中の1時に公園に集合するらしい!
「それまでは、
他のことをして過ごしていなよ♪
音楽ばかりが人生じゃないからね♪」
ミルルは、優しくウインクしながら言った。
そういうミルルは、
自転車にまたがって、どこかに行っちゃった。
いっつも自転車に乗ってるらしいよ。
「健康に良いんだ♪」って、言ってた。
ボクは、
リーザの背中に乗って、一旦家まで戻った。
夜中まで、一眠りしておくことにした。
夜中の1時近くになると、
ボクはまた、リーザを呼んで、
イタリア地方まで連れていってもらった。
リーザは、少し離れた場所から、演奏を見学するらしかった。
「リーザも、一緒にやる?」って訪ねたら、
「私はもう、飽きるほど音楽をやったわ♪」
って、笑ってた。
竜の存在たちは、
人間の姿のイキモノよりも、ずーーーっと経験豊富だからね!!
今度は、パート練習のときよりも、ずーーーっと人数が多かった!
100人くらいは居たと思う。
それでもやっぱり、ボクは、
指揮者に一番近い場所に、イスをあてがわれてしまった!
本来は、
指揮者に一番近い場所は、弦楽器が座るんだけど、
今日は、弦楽器と木管楽器が、場所をチェンジすることになったみたい。
そして、練習曲は、
やっぱり、「くるみ割人形」だった。
レイミーも、やっぱり、
ミルルと同じことを言ったよ。
「ベーの音だけ、好きなように吹いてごらん♪
周りの音に耳を傾けながら、リズムを考えてごらん♪」
たった、それだけ…
曲のアタマは、
さっき練習したコーダと、同じような感じだった。
だから、同じように、すぐに吹けた♪
でも、
曲が進んでいくと、
ぜんぜん違うメロディになってしまった!
何度聴いても、何度吹いても、
上手く調和させることが、出来なかった…
演奏を汚くするのはイヤだから、
その特殊なメロディの部分は、吹かないことにしてみた。
「正解!
キミ、なかなか賢いなぁ♪
ベーの音をどんなふうに吹いても、
上手く調和しないことが、解ったんだね?
正解正解!
その通りだよアミーゴ!
この曲は、途中で「調」が変わるんだなぁ。
だから、
上手く調和しないと解ったなら、
『休符を奏でる』っていうことも、大切なんだよね♪
『休符を奏でる』っていうのは、
『何もしない』っていうのとは、違うよ?
サルサ踊ってる場合じゃ無いし、居眠りしてる場合じゃ無い。
みんなの演奏にカラダを乗せながら、耳をすませて、待機してるのさ♪
『休符の演奏』が上手くなった演奏家は、
まぁ、免許皆伝ってヤツだね♪
『休符の演奏』は、
ピアニッシッシモを吹くより、7連符を吹くより、難しいのさ!
アミーゴ!キミはセンスがあるよ♪」
「へー!!そうなの!?」
レイミーは、根が陽気だから、ボクをおだててくれたのかと思った。
でも、そうじゃなかった。
ミルルも、リーザも、他の奏者も、
同じような褒めコトバを、ボクに浴びせてくれた。
「絵画を通して、
芸術的感性を磨いてきたからだろう」
みんな、同じコトバを、添えていた。
ボクは、音楽がとても新鮮だった!
絵画も同じ芸術だけど、
絵画っていうのは、一人でやるものさ。
一人で、マイペースに、自分勝手にやるものさ。
ボクは、他人とツルむのがあまり好きじゃないし、
他人に合わせるっていうのも、あまり好きじゃなかった。
だから、絵画っていうのは、都合が良かった。
でも、音楽をやるなら、
そんなワガママなことは、言ってられない…
でもでも、
みんなに合わせて音を奏でたり、
みんなを立てるために吹くのを休んだりするのは、
ぜんぜん窮屈じゃなかった!
優しいキモチになれた!
楽しかった!
音楽を奏でるっていうのは、
みんなで大きなお屋敷を建てるみたいだと思った。
目に見えないお屋敷だよ。
住めないお屋敷だよ。
誰も、
音楽の中に住むことが出来ないけれど、
音楽は、みんなの心の中に、住むことが出来る…
僕らは、お屋敷を組み立てたハズなのに、
お屋敷が、僕らの心に住んでいる…
音楽って、フシギなんだ。
霊能力より、ずーーーっとフシギだよ。
オーラや天使は、
密度が低いだけで、実際に、そこに存在してる物体だよ。
でも、音楽って、カタチが無い。
そこにあるのに、どこにも無い!!
「音楽の魅力に気付いたヒトは、天才なのよ♪」
って、リーザが言ってた。
絵画や写真も素晴らしいけど、
音楽は、もう一回り素晴らしいんだって♪
演奏は、3時頃まで続けられた。
いつもより早く、お開きになった。
ボクの体力や集中力を、配慮してくれたんだって。
他の仲間たちは、
個人練習やパート練習を、続けていたみたいだけど。
「ねぇ?
どうして、真夜中に練習したり、するの?」
ボクは、レイミーに訪ねた。
「あれ?アミーゴ、知らないのかい?
真夜中ってのは、芸術活動に打ってつけの時間さ♪
潜在意識への扉が、開かれるからね♪
ラブレター書くにも、絵を描くにも、音楽するにも、
真夜中にやるほうが、ずーっと上手くいくよ♪」
…確かに、
ボクも、家に居るときは、
真夜中に突然、絵を描きたくなることが、多かった。
真夜中に描くときは、
普段は思いつきもしないようなアイデアが、
バンバン浮かんで来た。
だから、真夜中に描くのは、好きだった。
音楽も、同じなのかぁ。
「それにしても、
どうして、公園なんかでやるの?
他の住民は寝てる時間だよ?迷惑じゃない?」
「フフフ♪
メキシカン・ロックでもやるなら、確かに、昼間のほうが良いさ!
でも、クラシックをやるなら、
近所の住民のためにも、夜のほうが良いのさ♪」
「えー!?
みんなを起こして、絵でも描かせるつもり!?」
「その逆だよアミーゴ!
みんなを快眠させるためさ♪
クラシック音楽は、安眠作用があるんだよ♪
キミが吹きまくってた「ベー」の音は、
子守唄のような作用を持っているのさ♪
だから、
この公園でクラシックを奏でていると、
近所の住民は、安らかに眠ることが出来るんだよ♪」
「へぇー!!知らなかった…」
キミ、落胆するかもしれないけど、
5次元文明に住んでるヒトたちにも、
知らないことって、いっぱいあるんだよ。
「でもさ?
公園だと、雨が降ったら練習出来ないよ?」
「そうさ♪」
「それで良いの?」
「良いさ♪
いいかいアミーゴ?
宇宙には、リズムってモノがあるんだよ♪
宇宙のリズムには、だーれも、勝てないさ。
だから、大人しく従っておいたほうが良い。
身を委ねておいたほうが、良い。
雨が降ったら、
『あ、今日は休んだほうが良い日なんだ!』って気付いて、
のんびり、お休みすれば良いのさ♪
僕らのクラシックがなくとも、
雨音が子守唄となって、住民たちも眠れるよ♪」
「じゃぁ、雨のときは、
ボクら、どうすれば良いの?」
「雨のときっていうのは、
太陽からのエネルギーが届かないから、どうにもチカラが出ない。
そういう時は、
脳や肉体を使わない方法で、時間を過ごせば良いのさ♪
テレビゲームするとか、マンガ読むとか、
恋人とイチャイチャするとか、さ?」
これは、
キミら地上世界の人々にも、当てはまるんだよ?
キミらは、
雨だろうが雷だろうが、毎日学校や会社に通うでしょ?
あんなルールは、止めたほうが良いのさ。
「人間のルール」に従って暮らすんじゃなくて、
「宇宙のルール」に身を委ねて、のんびり暮らすのさ♪
『イーストエンドは西の果てⅡ』