エピソード16
「ちわーっす!」
と、僕らが引き戸をくぐったとき、
2人のお巡りさんが夜勤中で、
コンビニの牛丼か何かを、ガツガツと食っていた。
「おぉ!どうした?
財布でも、失くしたか?」
「サイフは失くしてナイのに、
お金は、ありません。」
ハルオが、真顔で答えた。
「そうか!
じゃぁ、おじさんの替わりに、ココで夜勤、してくか!?」
…ノリのイイお巡りさんだった…
僕は、
クダラナイ漫才は放っておいて、事情を打ち明けた。
「実はですねぇ、
『トトロの森』っていう場所を、探してるんですよ。
このヘンにあるんじゃないかって、聞いたんですけど…」
「トトロの森!?
なんだろなぁ、それ。
おじさん、ココで30年も巡査やってるけど、
そんなお尋ねモノは、聞いたことナイなぁ」
「えー!?
狭山も、違うのー!?」
ハルオが、瞬発的に、ツッコんできた。
「…いや、
おじさんが知らなくたって、狭山にあるカモしんないよ?」
「ボウズ、なかなか、お巡りさんをナメてるなぁ(笑)
ヨシ!
たまにはオレも、マジメにシゴトするかぁ♪」
「なんだ、裏情報、持ってたんスか?」
ハルオは、
淡白に、ズバズバと、対等に、
お巡りさんと会話をしている…
「お巡りさん馴れ」しているんだろう(笑)
「わっはっは!
裏情報なんてたいそうなモンじゃナイが、
ココを使えば、知らないコトだって、教えられるんだよ♪」
芸人風のお巡りさんは、自慢気に、頭を指差した。
「…で、その『トトロの森』ってのは、
あの、『となりのトトロ』のことかい?」
彼は、紙と鉛筆を持ち出し、パイプ椅子に深く、腰掛けた。
「そうそう!
あの、『トトロ』なんスよ!
…なんでも、
宮崎さんって、埼玉出身のヒトなんでしょう?
子どもの頃の風景を題材にして、『トトロ』の背景を描いたとかって…」
「あぁ!
そういうハナシなら、聞いたこと、あるなぁ。
映画の中で、『七国山病院』ってのが、出てくるだろう?
アレ、
実際に、『八国山』って地名が、このヘンに、あるんだよ♪」
彼は、そう自慢気に言うと、
地図帳を開いて、僕らに証明して見せた。
彼は、肩を落として、続けた。
「…でも、
映画に出てくるような風景が、実際にこのヘンにあるかって言ったら…
ナイ気がするなぁ…」
「えぇー!?
『トトロの森』だけじゃなくて、
『サツキやメイが、トトロに出会ったバス停』
も、実在してるって聞いたこと、ありますよ!?」
「わははは!
それは、ガセネタを掴まされたなぁ、きっと!
アレと同じバス停なんてのは、ナイと思うぞ?
…あ、でも、
もう1コ、関連する地名が、あるぞ♪
映画の中で、『松郷』って地名が、出てくるだろう?
覚えてるかなぁ?」
「あーはいはいはいはい!
覚えてる覚えてる!
サツキが、『松郷から来ましたぁ』って言うシーン、あるよ!」
「それも、ほらぁ。ココにあるだろう?」
彼は、地図の一角を指差して言った。
「ホントだぁ!」
僕とハルオは、声を揃えて、感嘆した。
「…ってコトは、やっぱり、
このヘンに『トトロの森』があっても、
おかしくナイんじゃないかなぁ?」
「…あぁ、もしかして…」
初めて、もう一人のお巡りさんが、口を挟んでくれた。
「『トトロの森』って、
正式な商業施設でも無ければ、
映画の舞台のことでも、ナイなぁ。
そうじゃないかい?」
「…いや、僕らも、
どんな場所なのか、サッパリ、わかってナイんですよぉ。」
「何年か前に、地方新聞で、見たなぁ。
『トトロ』の映画が放映された後に、
どっかの自然保護団体が、
狭山の山の一角を、買い取ったんだよ。
ただただ、都市開発から守るために、さ?
…で、その山一体を、
『トトロの森』とかって名付けて、
親しみやすくしたんじゃなかったかなぁ…。」
「へー!村中さん、良く知ってるねぇ!」
「いやぁ、たまたまですよ!」
「…そっかぁ。
映画とオンナジ景色があるってワケじゃぁ、ナイのかぁ…」
僕は、ずいぶんと、ヘコんでしまった。
「でも、とりあえず、
行ってみても良くねぇ?
手ぶらで帰っても、ツマンネェしさぁ。」
ハルオは、常に前向きだ。
「そりゃ、そうだわなぁ。
…えっと、村中さん、
その、保護された山の場所とかって、わかります?」
僕は、
信頼のおけそうなその村中さんとやらしか、見ていなかった。
「うん。わかりますよ。
…どのヘンだろうなぁ。
えーっと、コンビニがあって…、この道かな!」
…実際は、
村中さんって名前では無かったと思うけど、
とにかく、細身の彼が、地図を指差してくれた。
「へー!!優秀だぁ!!」
「…だから、ボウズは、
お巡りさんをナメるなっつうの!」
「いやぁ、すんません!ついつい…」
「わっはっはっはっは!」
「わっはっはっはっは!」
ハルオっていう生き物は、
すぐに、誰とでも仲良しになっちゃうんだ。
それは、ヤツの、類稀なる才能だよ!!
何よりも重要で、何よりも素晴らしい才能だと、僕は、思う!!
『トトロの森のけもの道』