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エピソード16 『星空のハンモック』

エピソード16

麗子さんやリナちゃんがいなくても、私一人で百名のビーチに出ることがある。

それはライター仕事の良い気分転換になるし、

ときにはビーチで、潮風に吹かれながらパソコンを打つこともある。


そうして1つ、気づいたことがある。

この百名ビーチ、ビーチ目当ての観光客はそう多く来ないけれど、

そうじゃないお客さんが、ちらほらり来ることがあるのだ。

海に出そうもない格好をした人たちが、ときどきビーチに下りてきては、

ビーチにわーもきゃーも言わずに、素通りするように奥へと歩いていく。

何だろう?と思って、ついていったことがある。

するとその人たちは、

アマミキヨの上陸を奉るヤハラヅカサの石碑を、参拝しに来てるのだとわかった。


そういえば、カツミくんが、

このヤハラヅカサは、あがりうまーいの聖所の1つでなんちゃらりと、言っていた。

「あがりうまーい」というのは、沖縄の聖地巡礼のことを指すらしい。


やはり彼らは、カツミくんがしていたのと同じように、

ヤハラヅカサや浜川御嶽に神妙に参拝していく。

沖縄って、すごくスピリチュアルな土地なのだなと、私は実感するのだった。

そういううわさをどこかで聞いたことはあったけれど、

那覇や百名の集落で過ごすだけだと、あまり実感することはできなかったので。



私は、霊的なことはよくわからない。アマミキヨもよくわからない。

けれど、この百名ビーチが静かで綺麗な(ゴミのない)穴場であり続けているのは、

ここにそうした聖域があるからなのだということを、思い出した。

「そうか、私もけっこう、お世話になっているってことだな」そう感じて、

私も遠巻きながら、ヤハラヅカサの石碑に向かって、手を合わせて祈ってみた。


すると、思いがけないことが起こる。

「おや?若いのに感心だねえ。」

ヤハラヅカサを参拝していたお婆さんに、声をかけられたのだ。

「あ、どうも。」私は曖昧な返事をする。

お婆さんはニコっと笑うと、それでもう立ち去ろうとした。

けれど、不意に私の顔を二度見して、凝視してくるではないか。

「あ、すみません…」私は、何か失礼な所作でもしてしまったのかと思い、

わけもわからず、とりあえず謝罪の言葉をつぶやいた。

お婆さんは私の謝罪など気にも留めず、まだまだ私のことを凝視している。

そして、奇妙なことを言う。

「おほほ。お嬢さん、来世はいっそう美人に生まれるよ。

 ピンクのオーラを持ってるな。」

「は?」私には、何のことやらさっぱりだ。

「ちょっとお嬢さん、時間あるかね?」

「あ、ありますけど…」

そう答えると、お婆さんは私を連れて、近くの木陰に腰を下ろした。


「愛を、知ったな?」おもむろに、そんなことを言う。

私はドキっとして、そしてドキドキした。何かが見透かされているらしい。

「イイオトコだ。オーラのとおりに。

 よう口説いたねお嬢さん。内気なのに、ようがんばった。」

今度は私の顔も見ないで、言う。カツミくんとのことを言っているのだろうか?

「犠牲愛のあるイイオトコに体を捧げると、女はピンクのオーラを手にする。

 それは、女をいっそう美しく輝かす。来世まで待たねばならんときもあるがな。」

「はぁ。」

「ほんにいい恋をしたなぁ。映画のようじゃ。」

お婆さんは、なでられた猫のように、恍惚の表情をしている。

「はぁ。」

「それが、『愛』じゃよ。覚えておくことじゃ。

 打算無しに男を見定めよ。打算無しに男とまぐわれ。

 己を犠牲にしてでも守りたいと思ったら、それが『愛』じゃ。

 己を犠牲にしてでも悦ばせたいと思ったら、それが『愛』じゃ。

「はぁ。」

「ほっほっほ。説教くさくて悪いことしたな。じゃあな。」

お婆さんは満足げな表情をして、行ってしまった。


あれが、ユタというやつなんだろうか?

沖縄には、霊感を持つ人がとても多いらしい。彼女たち(たいていは女性)は、

通りすがりの見知らぬ人に、霊視で得た情報からアドバイスを授け、

名乗りもせず報酬も要求せず、ひっそりと消えていくらしい…


『星空のハンモック』

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