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エピソード16 本当に魔女なの?

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月9日
  • 読了時間: 4分

エピソード16 本当に魔女なの?


真昼にさしかかった頃、

ミシェルは歓声(かんせい)を上げた。

「見つけたわ!あのときの小屋!!」

女の子のはしゃぎ声を耳にして、

アンジェリカは木戸から顔を出した。

「まぁ、ミシェルじゃない!また来るなんて!」

二人は抱き合って、再会を喜んだ。

「あら?知ってたのかと思ったわ。

 魔女はなんでも知ってるんでしょう?」

「何でも知ってるってわけじゃないわ。

 私の天使は、必要だとおもうこと以外は教えてはくれないわね。

 まぁとにかく、小屋にお入りなさいな。おチビさんもね。」


アンジェリカは二人に食事をもてなした。

作りながら、食べながら、一部始終をすべて聞かせてもらった。

「ホントに大変だったわ! 

 それもこれも、あの立て札がなくなっちゃったからよ。

 不思議なことってあるのね。立て札が急に消えちゃうなんて。」

「まぁ!それは申し訳なかったわ。

 あの立て札、私が撤去(てっきょ)してしまったのよ。ミシェルが帰った直後にね。

 また来客があったらイヤだなと思って。」

「ごめんなさい。また来ちゃって…。」

「いや、あなたたちは良いのよ。

 お呼びでない人たちが迷い込んできてしまうのは、イヤだったの。」

「トナカイの猟師(りょうし)とか?」キャロルが言った。

「そう。そういうことよ。」

「なーんだ。立て札、神秘のチカラで隠されたのかと思ったわ!」

「うふふ。そういうことも無いとは言い切れないけど、

 神秘的に思えることもたいていは、ぜんぜん神秘じゃないのよ。

 とてもアナログで単純だったりするの。」


キャロルはいぶかしげながら言った。

「おばちゃんは本当に魔女なの?

 魔女って鼻が長いのよ。腰が曲がってて300歳くらいのおばあちゃんでしょ。

 コウモリとかヘビの抜けがらとか、グツグツ煮込んでるのよ。」

「あははは!おとぎ話の読みすぎよ!あなたたち二人とも!

 昔はそういう魔女もいたのかもしれないけどもね。

 今の魔女は、もっと普通よ。そこらの女性と大差ないわ。

 魔法もあまり使わないでしょうし。

 ただ淡々(たんたん)と、社会や男性に依存せずにたくましく暮らしているわ。」

「でも、それじゃ魔女なんて信じられないわ。

 わたしたちせっかく、心臓がはれつするほど苦労して歩いてきたのに…

 イマイチ感動できないわ。」

「ごめんなさいね。あなたの期待に応えられなくて。

 でもね、だからこそ、本当の魔女たちは、

 『私は魔女よ!』なんて誇示(こじ)せずに、ひっそりひかえめに暮らすのよ。」

「何か魔女らしいところ、証明してみせてよ?」

「ほらね。そんなふうに言われたって、証明なんてできないから。

 仮に、ちょっと派手なことができたとしたって、

 『トリックだ!』って疑われて、それでおしまいよね。」

「なーんだ。やっぱり魔女じゃないのね。」

「うーん。こまったわねぇ。

 そうだ。キャロルあなた、体中くたくたでしょう?

 ちょっとこっちへいらっしゃい。」

「なぁに?」キャロルはアンジェリカのとなりのイスに移動した。

アンジェリカはキャロルの体をざっと見渡し、

すねに大きなすり傷を見つけると、その患部(かんぶ)にそっと手をかざした。

「…なぁに?」

「心をしずめて、よーく感じとってね。

 ほら、あなたのすね、ポカポカと温かくなってこない?」

「………。

 ホントだ!温ったかいかも!」

「私が見せられるのはこれくらいだわ。癒(いや)しの魔法。

 それもほんのちょっと傷の治りが早くなるだけ。

 でも、ポカポカ温かくなるなんて、ちょっと不思議じゃない?」

「うん。ちょっとは不思議だけど…」

「まぁいいのよ。

 あなたにとって私が魔女じゃないなら、私は魔女じゃなくていいの。

 私のことは魔女なんて呼ばなくていいわ。ヘンゼルって呼んで。うふふ。」

「ヘンゼルさんっていうの?」

「そうじゃないけどね。あだ名よ。うふふ。

 っていうかキャロル、あなた自分だって魔女みたいなものでしょ?

 ぬいぐるみとお話できる子なんて、ふつうじゃないわ。」

「わたし?魔女??」

「まぁ、魔女とは違うけどね。あなたは天使の仲間。

 …あ、ちょっと待って!

 うん。ひとつだけ神秘的なこと、見せてあげる。了解がおりたわ。

 ミシェル、ちょっとこっちへいらっしゃい。」

「今度は私?だいじょうぶよ。どこもそんなに痛くないから。」

「ちがうのよ。うふふ。」

アンジェリカは、ミシェルの額をはさみこむように、その両手をかざした。

何かを念じながら、しばらく手を当てている。

「熱い!熱いわ!」ミシェルはおどろく。

「もうちょっと待って。熱いかもしれないけど辛抱(しんぼう)してて。」

「でも熱いよ!?」

「だいじょうぶ。こげたりしないから。

 それと、目を閉じていて。」

そのまましばらく、アンジェリカはミシェルの額に手をかざし続けた。



『ミシェル』

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