top of page

エピソード17 『人魚たちの償い』

エピソード17

そうしていつしか、1年が過ぎた。


約束の日の夜、私は再び、岩場へと出ていった。

イレーナは、そこで私を待っていた。

「お久しぶり。

 顔も体も、ずいぶんとたくましくなったわね。」

「ありがとう。自分じゃあまりわからないけれどね。

 精神的には、タフになったかなと思うわ。

 さて。本題に移りましょ。

 私たちがすべきことって、何なのかしら?」

「タニア。あなたたちには、

 この島に、文明を築いていってほしいのよ。」

「文明?」

「そうよ。文明。

 家族ではなく、社会を築いていってほしいの。

 そして、もっとたくさんの人間で、助け合い、高め合うのよ。」

「どんな文明を?」

「大ざっぱに言うなら、

 アトランティスの二の舞にならないような、良心的な社会を、ね。

 あなたのいた国スペインも大国イギリスも、科学はまだまだ発展途上だけれど、

 争いや偽り、裏切りの度合いは、すでにアトランティスと大差ないわ。

 ああした国が次に産業革命を迎えたなら…

 地球を崩壊するほどの、大きな戦争になるでしょうね。

 だからあなたたちには、

 善なる人間の歴史を、ひっそりつむいでいってほしいの。

 旧約聖書にあるエデンの園を、この島に築くのよ。」

「エデンの園…。悪くないわね。」

「そうよ。エデンのようになるわ。欲を出さないなら、ね。

 ヤシの実とアボカドとバナナなら、大した労働もなく手に入る。

 義務も責任もなく、冬でも寒くない。

 あとは日がな、家族と戯れあいながら、暮らしていられるわ。

 美しい美しい海を、眺めていながら、ね。

 まさしく、エデンの暮らしよ。

 エデンの暮らしは、こうした未開の島なら、可能なの。

 あなたたちのような良心的な家族なら、始められるの。

 科学進歩の先には、存在しないのよ。」

「いいじゃない。」

「良かったわ。そう思ってもらえて。」

「あれ?でも、どうやって人を増やせばいいの?

 漂着してくる人を、気長に待つの?」

「それじゃ、100年経っても1人も増えないかもしれないわ。」

「そうよね。」

「子供の産み方、あなたもう知ってるでしょ?」

「え、えぇ。知ってるけど…。

 父も母も、もう子供を産むには年を取りすぎているわ。」

「もう1組いるじゃない?カップルが。」

「え…!?」

「そうよ。あなたたちきょうだいよ。」

「ちょっと待って、嘘でしょ!?」

「嘘じゃないわ。真剣よ。」

「だって、私たちきょうだいよ!?」

「あらゆる文明は、きょうだい同士の交わりで増えていったのよ。最初はね。

 あなたたちのように、家族やカップルで無人島に降り立って、

 そしてその者たち同士で、子孫を増やしていったのよ。」

「でも、そんなのって…!」

「戸惑う気持ちもわかるわ。常識はずれなことだものね。

 でも、あなたたちがどれだけ常識はずれでも、それをとがめる人はいないわ。

 警察も弁護士も、この島にはいないのだから。

 この島の常識は、あなたたちが作っていけばよいの。

 まぁ、これも私たちが強要できることではないわ。

 あなたたちの自由に委ねられたことよ。

 でも、子供を作るなら、ご両親が健在のうちのほうが良いわ。

 ご両親はお医者さんでしょう?

 妊婦や赤ちゃんの体調はとてもデリケートだから、

 医学に精通した人間のサポートが、とても大事なの。」

「ちょっともう、頭が真っ白だわ…」

「話はもうおしまいにしましょう。

 焦ることはないわ、ゆっくり考えればよいことよ。」

朝が来て、みんなが起きると、

戸惑いながらも、つまづきながらも、イレーナの話を伝えた。

みんなもビックリしていたけれど、

ここで何十年も暮らしていくなら、

やはり子孫を産み増やしていかなければならないと、頭は理解できる。

アントニーはモジモジして、何も口にしなかった。







それから10年後、この島は、人口が9人になっていた。

父を道徳と政治の柱として、

私たちは助け合い高め合い、のんびりと暮らしを営んだ。


イレーナはときどき、私たちに会いにくる。相変わらずアントニーには会おうとしないけれど。

暮らしの知恵を教わることもあれば、雑談をすることもある。

「人魚に男はいないの?」そんなことも尋ねたりした。

人魚に男はいないらしい。

男がいると、快楽に溺れすぎてしまうから。

同じ理由で、彼女たちは下半身が魚になっている。



今となれば、この生き方を選んで正解だったと思っている。

毎日はとても穏やかで、とても幸せ。

薄い薄いターコイズ色の海は、

今日もまた、寄せては返す。

まるで、この島の日々を象徴するかのように、

美しく、穏やかに、同じようなリズムで、寄せては返すのだった。


---------------------------------END--------------------------------

2016/01/31 完筆






『人魚たちの償い』

最新記事

すべて表示

エピソード158『世界樹 -妖精さんを仲間にするには?-』

エピソード158 ドラゴンの姿のキキは世界樹の残骸の上にふわりと降り立った。 3人と馬をそっと地面に降ろす。 そしてすぐに10歳の少女の姿に戻った。 キ「ふぅ!みんなお疲れさん♪」 な「キキちゃぁーーーん!怖かったよぉぉ!!」 ななはキキに飛びついた。 キ「よしよし。よくやったねぇ」キキはななを優しく抱きしめ労った。 ゆ「キキちゃん強すぎ!」ゆなもキキを抱きしめる。 キ「へっへーん♪ だから言った

エピソード157『世界樹 -妖精さんを仲間にするには?-』

エピソード157 キキはジロっとエビルプリーストを睨みつけた。 キ「最後はみんなで戦いたいの。協力してくれる?」 3人は力強くうなずく。 キキの背後には、さっきの天使たちが光の粒の姿となってキラキラと輝いた。 キキは両手を構えて魔力を集中させる。 キ「山よ、海よ、花よ、宇宙の無数の精霊たち。そして新たな天使の友人たち。 精霊ルビスの御名の元、今こそ我に力を与(くみ)し賜え。 ただただ不届きものを滅

Comments


bottom of page