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エピソード17 『全ての子供に教育を』

エピソード17

くたびれ果てているというのに、早朝の4時半には目が覚める。

ニワトリがそこらでケーケー鳴きはじめたからだ。

それにつられて、奥さんも起きたらしい。こんなに早く起きるのだ。


俺は、もっと眠っていたかった。

リュックからMP3プレーヤーを取り出して、耳栓がわりに音楽を流した。

幸い、すぐに眠れた。

当然だ。くたびれ果てた体は、まだまだ睡眠を欲している。



結局俺は、10時頃まで眠っていた。14時間も眠ったらしい!

それでも尚、体は悲鳴をあげている。

部位によっては、昨夜よりも痛いくらいだ。

だからといって、いつまでも寝転がっているわけにはいかない。

俺にはやることがあるし、この家の奥さんに甘えすぎてはいけない。


俺は豪快に伸びをし、そしてしぶしぶ体を起こす。

やはり腰が痛い。骨がズレているような感覚がある。


利典さんは横には居なかった。当然だろうが。

彼の布団は綺麗に畳まれ、いくらかのバーツ紙幣が添えられていた。

俺も彼の真似をして、布団を折り目正しく畳み、いくらかのチップを添えた。


俺の物音に気づくと、

奥さんは俺の顔を見て、なにやらゴニョゴニョ言う。

「え?」と耳をそばだてるポーズをすると、

ご飯を食べるようなジェスチャーをした。

「朝食はどうか?」と尋ねているらしい。

俺は、精一杯の笑みで「YES」と頷いた。

会釈というのは、俺は上手ではないのだ。

大概、勉強し過ぎている奴というのは、笑うのが上手ではないだろう。


トイレに行きたくなったが、

どう尋ねて良いものか、わからない。

ジェスチャーで示すにも、まさかペニスを出して小便の格好をするわけにはいかない。

仕方ないので、利典さんの帰りを待つことにした。

うーん。言葉がわからないのは不便だ。

利典さんは今日で帰ってしまう予定だが、俺はコミュニケーションが取れるのだろうか。

…そもそも、

「学校を建てる」というプロジェクトを企てたときには、

ここまで大層な田舎に来るとは、思ってもみなかった。

地獄のような山歩きをするとも、思ってもみなかった。

紳助のTVクルーは、大きなバン車で村に乗り込んでいたし、

村にはテレビくらいは備わっているようだったぞ。


やがて、朝食が運ばれてきた。

メニューは、昨夜と同じだった。

彼らは、およそ毎日、同じものを食べているのだろう。

グルメの行き過ぎた日本人がこの村で暮らすなら、

ノイローゼになってしまうのではなかろうか。


『全ての子供に教育を』

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