エピソード17
翌日土曜日は、
カティたちと一緒に車で外出でした。
フィンランドの人たちは、
土日になると頻繁に、親親族に会いにいくんだそうです。
「じゃぁ、一緒に住めばいいのに?」
私は、シナモンロールをかじりながら、カティに問いかけます。
「うふふ。その距離感が重要なのよ!
たいていみんな、
18歳にもなったらもう、親から離れて暮らしたいの。
暮らしにあんまり干渉されたくないし、自立心を養いたいし。
親の側としても、子育てを一通りがんばったなら、
夫婦みずいらずでノンビリ過ごしたいのよ。介護なんて子供に期待しないわ。
なるべく自由に暮らしたい。
その代わり、親にも子供にも甘えない。
それがフィンランド人の気質なんでしょうねぇ。」
「仲が悪いの?」
「違うんだってば!
仲が悪かったら、こうしてわざわざ会いに行く?片道2時間も掛かるのに。
仲が良いからって、ベタベタ一緒に暮らすべきとは考えないのよ。
それぞれ自立と自由を愛してるから、普段は別々に暮らすの。
そして週末とか夏至祭とか、そういうときだけ、
互いに顔を見せ合って、手作りシナモンロールでも差し入れしたりするのよ。」
仲が良いけど、別々に暮らす。
別々に暮らすけど、仲が良い。
まるで、ムーミン一家とスナフキンの関係性みたいです。
車はものすごいスピードで、北上していきました。
フィンランドはうわさどおり森が多く、
ユスキュラにしても、中心街から20分も飛ばせば、もう豊かな森林が広がります。
森というか、雑木林というのかな。エンピツみたいにひょろ長い木が整然と立ち並び、
ハイキングコースみたいな穏やかな雑木林を形成しているのです。
「森、キレイですね…」
私が思わずそうつぶやくと、
アンティは、「ちょっと散歩するかい?」と言って車を停めてくれました。
木立の中は、晴れててもひんやりと心地よく、
まさしく、お散歩にうってつけです。
私は、車でちぢこまった体を伸ばすべく、大きく伸びをして、「うーん」と唸りました。
「シー!森では大声を出しちゃいけないよ?」
アンティは、ウインクしながら言いました。
それが、フィンランドにおける森でのエチケットなのだそうです。
カティも森歩きが好きらしく、
両手を小鳥みたいに広げて、弾むように先陣を切って歩きます。
「カワイイだろ?
俺は、カティのああいうところが好きなんだよ♪」
アンティは微笑ましく幸せそうに、カティを眺めています。
二人は付き合い始めて10年以上経つらしいですが、未だにラブラブなもよう。
家でも二人は、私の目も気にせず、二人でくっついています。
「翔子!こっちにいらっしゃい♪」
見ると、カティが向こうでしゃがみこんでいます。
「なになに!?」興味津々に駆け寄ってみると、
カティの足元には、赤いベリーの実がいっぱい!
「ちょうど良かったわ。お土産にしましょう♪」
カティは幼い少女みたいに、丹念にベリーを摘み取っています。
「大丈夫なの?ここって、誰か他の人の土地じゃないの?」
「大丈夫なのよ♪
フィンランドでは、森はみんなのものなの。
誰か所有者は居るんでしょうけど、それでもみんなに開放されてるの。
勝手にウッドテーブルで休んでも怒らないし、
ベリーやキノコを摘んだって、怒らないのよ。
森の恵みは、みんなで分け合うものなの♪」
「…!!」
なんてステキなルールなんでしょう!?
まるでおとぎ話の中みたいな、自由で優しい世界…!!
『真理の森へ』
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