エピソード18 『私の彼は有名人』
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- 2023年3月26日
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エピソード18
結局私は、釘さしというようなことは、何もしなかった。
Mちゃんとどこで何を食べたかとか、そういうのも詮索しなかった。
私の中に渦巻く嫉妬心は、ただただ自分で、押し殺した。
彼の曲を聴きながら、布団をかぶって、一人で耐えた。
いいんだ。これでいいんだよ。
私なんか、どうなったってよいのです。
しかし、キセキは起きた…!
そのMちゃんというアイドル声優は、人脈がけっこう広いらしい。
そして、友達を助けるようなことが、大好きらしいのだ。
すると彼女は、ラジオ番組や芸能仕事などで、しきりに、彼のうわさ話をするのだ。
「こんなにステキなミュージシャンがいるんだよー!」と、口コミをしまくるのだ。
すると、やはりそこから、新しい話が舞い込んでくる!
楽曲提供の依頼が数件来たし、
「レコーディングするならウチの事務所で格安でやってあげるよ」というような話もあった。
例のイベントは、男性客ばかりだったが、
Mちゃんが、「○○クンのCD、買ってあげてね♪」とウインクすると、
10人以上もの男性客が、彼のCDを買っていってくれた。
楽曲提供の話は、どんどん広がりをみせた。
「彼のメロディは美しい」という評判が、業界裏で駆け巡ったらしい。
かなり有名なミュージシャンからも、楽曲提供の依頼が来た。
ただし、「ゴースト(ライター)で頼む」というのがもっぱらだった。
ゴーストで曲を書くというのは、どうなんだろう?
法律的な面から言っても、アイデンティティの面から言っても、
あまり良いことのようには思えなかった。
しかし彼は、その仕事を引き受けた。
「ゴーストでも良いの?」私は直接、尋ねてみた。
「僕としては、僕のクレジット(名前)が載るかどうかは、あまり重要じゃないんだよ。
僕の詞や曲がお茶の間に届くなら、願ったりかなったりさ。」
何にせよ、彼なりの美学があり、彼なりの思想があるらしい。
『私の彼は有名人』