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エピソード19 『「おとぎの国」の歩き方』

エピソード19


アジナの空気は静かだ。どこの空気も静かだけど。

僕は、とりとめもなく話しはじめた。

「お爺さん、訊いてもいい?」

「何なりと。」

「龍って何なの?

 …龍は知ってるけど、『龍の人』ってのは何なの?」

「龍の者たちは、シャンバラの出身者じゃ。」

「シャンバラ?」

「シャンバラも知らんか?若いしな。

 …それにしても若いな。求道者にしては若すぎる。

 おぬし、カメレオンどころかシャンバラも、

 シャングリラも知らずに、ブータンに来たのか?」

「シャングリラって言葉は、なんか聞いたことあるけど…

 かといって、ブータンに来た理由とは関係ないね。

 ブータンに来た理由?

 申し訳ないけど、たいそうなモンじゃナイよ。

 秘境って言われてるからさ、ブータンって。

 ちょっと刺激的な旅がしたかったから、ブータンに来たんだ。」

「ほっほっほ!そうか。

 そういう龍がいても良いじゃろう。わしは嫌いじゃない。」

「ふーん。嫌われてないなら良かったよ。」

「龍の話じゃったな。

 いや、まずシャンバラからいこう。

 シャンバラは、仏陀たちの暮らす土地。」

「仏陀って、あの仏陀?」

「おぬしはおそらく、仏陀というのを人名だと思っておろう。

 それは正しくない。仏陀とは、肩書きのようなものじゃ。

 悟りを開いた者のことを、仏教では、仏陀と称する。幾人もおる。

 悟りを開いた者たちが、シャンバラに住む。

 そこから、新たな修行として、

 下界に生まれなおし、主にして、人助けや啓蒙を担う。」

「啓蒙?僕、そういうのはやってないな。そういう器じゃないし!」

「ほっほっほ。

 無意識に、やってきておるだろうよ。少なからず、な。

 気張らんでいい。気張らんほうが良いことも、ある。」

「あはは。お爺さん、わりと気楽だね?」

「ほっほっほ。おぬしほどではない。

 旅を愛する者は、誰もが教師じゃ。

 聞くところによると、日本の場合、

 霊人よりも旅人のほうが、悟っているらしいぞ。」

「ふーん。」

「そうだ。その軽さが良い。

 霊人はシリアスすぎて行き詰まる。」

「ふーん。」

「ほっほっほ。」



『「おとぎの国」の歩き方』

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