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エピソード19 『ミシェル2 -世界の果て-』

エピソード19

まさかとは思ったけど…

宿もすさまじくボロいの!

ヴィリニュスのユースホステルと全然まったく恐ろしいほどに違うから、愕然としちゃった。

ロビーは薄暗くて、営業してるのかすらわからない。

さっきの旅行者を見てなかったら、営業してないかと思い込んで引き返してたと思うわ。

デスクの周りは散らかってて、スタッフの愛想も悪い。

通された客室も酷いもんよ。薄暗い部屋にベッドが並んでるんだけど、

どのベッドもどっかしら底が抜けてるの。底抜けしてないベッドもあったかもしれないけど、

3つ確かめて3つとも抜けてたから、もうあきらめたわ。

シーツは古ぼけてるし、ベッドメイクはシワシワ。

でも、値段聞いたら怒れなくなっちゃった。

幾らだと思う?1.5ドルよ!1泊1.5ドル!

エジプトって物価が安いの。

そのうえ古いビルに、古いベッドやシーツを使いまわしてるでしょ?だから安いのよ。

ヨーロッパから来て、何週間も滞在し続ける人もいるらしいわ。

もうちょっと高くてもいいからヴィリニュスのみたいなユースホステルに泊まりたかったけど、

カイロにはなぜか、ユースホステルは無かったの。

でもね、別に眠れないことってないのよ。

私、秘密基地でお泊り会したこと何度もあるけど、

あそこなんてソファーで寝たり床で寝たりだもの。

シーツなんか拾ってきたものだし。時々しか洗濯してないしね。

キャンプなんかもたまに行くけど、

テントで寝るなら床はゴツゴツしてるし、バンガローもアリだらけじゃない?

それ考えたら、この宿のほうがまだマシよ。


かといって、

街も宿も、長居したいような場所じゃなかったから、私は情報収集に努めたわ。

情報ノートっていうのがあるって言ってたじゃない。

それ探してみたけど、見つからないの。誰かが持っていってるのかしら?


仕方ないから、フロントのおじさんに聞いてみたわ。あんまり愛想良くない人。

「情報ノートって、どこにありますか?」

「情報ノート?そこらに転がってないか?

 ないなら誰かが持っていってるんだろう。」

「やっぱりそうなのね。」

「情報ノートっていうか、欲しいのは情報だろう?

 どこに行きたいんだ?美味いコシャリ屋か?」

私は、ポストカードを見せながら言った。

「ここに行きたいんです。

 エジプトの南の方にあるって聞いたんですけど…。」

彼はポストカードを凝視する。

「これはエジプトじゃないな。モロッコだよ。

 シャウエンの写真だろう。」

「モロッコ?違うわ。エジプトの南のほうなのよ。

 南のほうにいくと、アフリカ人ばかり住んでる地域があるんですって。」

「モロッコのことだろ?

 君の住んでる町から南だって言われたんじゃないのか?

 アフリカ人が住んでるよ。モロッコにも。

 ほかの誰かにも聞いてみたまえよ。

 エジプトじゃないのにうかつに移動しても無駄骨だから、

 情報が確定するまでは動かないほうがいい。」

「それって、さらにここに延泊しろってこと?」

「どこに泊まるかは君の自由だがね。」

彼は「あっそう」というふうにポストカードをデスクの上に投げ捨てた。

きっとそういうことなんだわ。

1泊分でも多く宿泊代をせしめたいから、嘘をついてるのよ。

マリウシュが言ってたわ。エジプト人は油断ならないって。


私は彼から離れて、外出することにしたわ。

まずは近場の服屋さんで、ジーンズと男もののパーカーを買って、

マリウシュの忠告通り、ワンピースはやめにしたの。

そしたら次は食事。

疲れを感じてたから、ちょっと高級な、旅行者向けの店に入ったわ。

そしたら、さっき私のエレベーターを開けてくれた人たちを発見。

「こんにちわ。さっきはどうもありがとう。

 相席、いいかしら?」

「かまわないよ。調子はどう?

 ようこそカオスの街へ!あははは。」

私はメニューを開き、適当にパンケーキとカフェオレを注文した。

「それでね、聞きたいことがあるんです。

 この…あれ?」

あ、私、ポストカードを宿に置いてきちゃったみたい。

「まぁいいわ。

 あのね、水色の町、知りませんか?

 エジプトの南のほうにある、水色ばっかりの町なんです。」

「知ってるよ。アスワンにあるやつだろ?」

「アスワン?わかりません。」

「あんまり有名じゃないやつだろ?」

「そうかな?多分。私、知らなかったから。」

「町っていうか村だ。ヌビア村だよ。ヌ・ビ・ア。

 アスワンは有名な観光地だけど、ヌビアは無名だな。

 何もないとこだからバックパッカーしか行かないんだよ。金持ちは知らない。」

「そう。そういうところよ!」

彼らは私に、ヌビア村までの行き方を教えてくれたわ。

ちょうど数日前に、アスワンや南の観光地を巡ってきたんですって。


『ミシェル2 -世界の果て-』

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