エピソード19 『星空のハンモック』
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- 2023年3月19日
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エピソード19
「そうやんなあ。
あたしは、画用紙の中で『自由』を追求してるんやとおもう。
まずは、テクニックとセオリーをとことん磨くねん。勉強しまくって、練習しまくんねん。
で、そのうえで、技法やセオリーを無視すんねん。
めっちゃ気持ちええで?
高速道路のど真ん中、歩くくらいスリルあるわ。
ええか?
『できない』のと『やらない』のは違うねんな。
子供に絵描かしたら、めっちゃ自由で奇想天外やわ。
でもな?それは、何も知らんだけやねんな。
技法も知らんし遠近法も知らんし、骨格が間違っとることにも気づいとらん。
それがな?技法や常識を知れば知るほど、
大胆なことってできなくなってくんねん。
自由な子でもそうやわ。中学生にもなったら、顔からは手はやさんわ。
あたしはな?
技術とセオリーと常識に凝り固まったところから、スタートすんねん。
頼まれ仕事の場合は、まぁ無難な絵描かかんといけんのやけど、
普段の趣味で描く絵は、めっちゃ自由を追求できんねん。
広ーい、大きいーな紙広げてな、
こんなちんまいハート1つだけ描きたいなら、それでもええねん。
正解なんてないんやから。
夢中んなって描いたあと、爆睡してな?
翌朝自分で見てみて、『なんやねんこれ!おもろいなー!!』って言ったら、
あたし、勝ちやねん!」
「ピカソみたいなことですか?」
「ピカソも自由やけどな。
でも、まだ甘いと思うで。
結局ピカソは、『ピカソふう』な絵ばっかり描き続けたやんか。
いくらデッサンが奇想天外でだまし絵みたいなんでも、
あれももう、3つも続けたら『予定調和』やんなぁ。
…まぁ、別にピカソは、
自由を追求しようとしたわけやないんやろから、あれでええんやろけどな。
自由にこだわるなら、もっと自由に描かんとなぁ。
まぁ、自由にこだわらんことも、自由やけど。」
「自由にこだわらない自由?」
「そうやで。
別にたまには、モネみたいな正統派の風景画描いたってええねん。
そうしたいときもあるやんな。
自由なんかより美しさ追求したいときも、あんねん。」
自由だこの人。ホントに自由だ。
「自由に生きたいんやったらな?
あんま有名にはならんほうがええで。」
また面白そうな話が始まった。
「テレビも出版も、規制が多いやんなぁ。ぜんぜん自由に描けへん。
それに、クライアントからもファンからも、
特定のカラーを期待されるやろ?
大体、大ブレイクしたときの作風を、延々と期待されるわ。
それに縛られるのもぜんぜん自由やあらへんし、
それを裏切るにしても、批判されたりクレームされたりして、めんどいわぁ。
『表現しない』っていう自由もあんねんけど、
それかてなかなか認めてもらえへん。
あたしの旦那ほど、みんな心広くないやんな。
せやから、自由にやりたいなら、あんま有名にはならんほうがええねん。」
そういえば、カツミくんも似たようなことを言ってた気がする。
「…ところで、
何やろな?これ。あたし知らん人やけど。」
ハルコさんはなんと、私に自由論を熱弁しながらも、
同時進行で、画用紙に絵を描いていた!
そしてその絵というのは、
2人の男女が星空の下、ハンモックでくつろいでいる場面。
男の人は、ギターを抱えている。
「カツミくん…かも…」
「やっぱりなぁ。ハナちゃんの絵やろ?これ。
要らんかもしれへんけど、あげるわ。」
「どういうことですか?何見て描いたんですか?」
「まぶたの裏にな、映ってんねん。」
「霊能力ですか?」
「たぶんな。」
「ウフフ。面白いでしょ?ハルコちゃんも。」麗子さんは、ほおづえついて微笑んでいる。
面白いなんてもんじゃない!
『星空のハンモック』