プロローグ
そしてかのんは、新しいプレリュードを奏ではじめた。
エピソード1
1日6時間。
それがかのんの1日の平均ピアノ練習時間だ。
いや訂正。「平日の」平均ピアノ練習時間だ。休日は倍にもなる。
熱心なクラシック家庭であれば、さして驚くことのない数字ではある。
熱心なクラシック家庭の子は、
まるで卓球少女愛ちゃんのように、朝から晩までしごかれる。
そして、泣こうがわめこうが、それでもピアノのイスから立ち上がらせてもらえない。
このスパルタによって、ピアノ・スキルの前に、まずは根性が身につく。
この根性修行は、実は非常に重要だったりする。
クラシック奏者はたいてい、ピアノだけでなく2つ3つの楽器を極めているが、
そんな離れ業をやってのけるためには、「根性」という基礎スキルが不可欠なのだ。
かのんもまた、そういう家庭に生まれ育った。
ひらがなを覚えるよりも早く音符を覚えさせられ、
「自分はピアノが好きなのか?」それを自問するよりも早く、ピアノ漬けになった。
『かのんのノクターン』