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エピソード1 『ミシェル2 -世界の果て-』

プロローグ






 でもそれじゃ、クツを片っぽはいただけなのよ。

 女の人生は、夢だけでは済まないの。






エピソード1

リリルのこと覚えてる?

魔女のアンジェリカが紹介してくれた、ブルーベリーの妖精さん。

アンジェリカの小屋から帰ったあとも、お話することできたわ。

でもね、私から話しかけても、あんまり答えてはくれないの。

リリルがしゃべりたいときに、しゃべりたいことを話してくるだけ。

でもね?自分勝手な妖精さんなのかと思ったら、そういうわけでもないの。

だって私がなんでもかんでも質問して、それにリリルがなんでもかんでも答えてたら、

私、自分で考えることしなくなっちゃうでしょ?

それに、なんでもリリルが助けてくれると思ってリリルに依存しちゃう。

そうならないように、リリルはリリルのペースでしゃべるようにしてるんだって。

よくよく聞いてみたら、キャロルのロッドもそうらしいの。

ウサギのぬいぐるみのロッドのことよ?


日々は相変わらず。

学校はそこそこにやっつけて、終わったら秘密基地に行くの。

ホームレスのウィリアムスさんがやってる、川向うの秘密基地よ。

元ピエロで元社長の、世界一ヘンテコな大人のウイリアムスさん。

ナンシーは中等部に進学しちゃって、6時間目まであることも多くて、

なかなか秘密基地に来れなくなっちゃったの。

だから私、キャロルを連れて行くわ。

あの子も学校が合わないから、つまり秘密基地が合うのよ。あまり勉強はしないけどね。

でも別に、それでいいんじゃないかって思う。

キャロルが割り算できないとしても、

キャロルをだましてチョコレートを等分しないズルい子なんていないから。

まぁいないこともないけど、そういう子とは遊ばない。

全員と仲良くするのは難しいのよ。秘密基地みたいなステキな場所でも。

無理に仲良くはしないの。学校みたいに無理やり一緒のお遊戯したりしない。

でもケンカもしないわ。やかましすぎてもモンク言わないようにしてる。


私がナンシーに教わったことは、なんでもキャロルに教えてあげるの。

そしたらきっとナンシーの血は、キャロルにも、きっとそのまた下の世代の誰かにも、

脈々と受け継がれていくと思うのよ。

きっとそのうちキャロルが、小鳥を飼いたがる誰かさんのために巣箱を作るの。

小鳥じゃなくて仔犬かもしれないけど。


新しいことやっちゃいけないってわけじゃないのよ。

時代とともに変えていくべきことだってあるし、子供たちの興味だって変わるわ。

野菜育てるブームが起きたこともあったわ。

誰だったかしら?誰かがお弁当の残飯を取っ散らかしちゃって、

そのときに床に落ちたチェリーの種が、なんと、芽吹いたのよ!

勝手に芽吹いて、勝手に実をつけたの!

それが面白くて、みんな好き勝手に種や球根を植えたのね。

幾つかは育ったわ。全然育たないのもあるけど。

別に食べ物に困ってるわけじゃないから、気楽なもんよ。

農業って子供がやったほうがいいんじゃないの?泥んこ遊び好きだしさ。

そのうち給食までココでまかなえるようになっちゃったら、

いよいよ学校に行く子がいなくなっちゃうんじゃない?

それは問題だ!ってナンシーが言ったけど、

ウィリアムスさんったら、面白いこと言うのよ!


「…学校にぜんぜん行かなくなっちゃったら、それは問題だわ!」

「そうかい?そうでもないと思うけど?」ウィリアムスさんは言うわけ。

「何言ってるのよ!

 学校行かなかったら将来働けなくなっちゃうじゃない!」

「ははは!働けなくたっていいんじゃないかな?

 だって、じゃぁそもそも、

 人は何のために働くんだっけ?飢え死にしないためだろ?

 飢え死にしないための食糧がここで自給自足できるなら、

 働かなくても困りゃしないさ。」

「うわー!!」子供たちは盛り上がる。

「…まぁ、そう単純なハナシでもないよ。

 食べ物さえあれば生きていけるってもんでもないからね、今の世の中は。

 ナンシーの言うとおり、学校は出ておいたほうがいいし、

 仕事も持っておいたほうがいいし、税金も払っておいたほうがいいだろね。」


『ミシェル2 -世界の果て-』

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