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エピソード1 『虚像のバンドマン』

エピソード1

俺は、

とあるバンドで、ベース・ギターを弾いている。

つまり、ベースのことだ。ベーシストだ。

ギターも一通り弾けるし、歌もそこそこ唄えるが、

ベースという楽器が好きだし、ベーシストというたち位置が、好きだ。

ドラムも、叩けないことも、ない。



本来、バンドというのは、

こんなふうに、

「どの楽器もそれなりに弾けるが、オレはこの楽器が良い」

という万能的なヤツらが組むのが、理想的なんだよ。



一つの楽器しか出来ないヤツは、

視野が狭いし、自信が無いし、ワガママなヤツが多い。

また、

そういうヤツの演奏の仕方や唄い方は、

「体育」なんだよ。「音楽」じゃねぇんだ。



「音楽」が出来るバンドマンってのは、

実は、そんなに、多くねぇんだ。

少なくとも、ハモりを自分で考えて付けられないヤツは、

音楽家じゃねぇ。「楽器を持ったスポーツマン」だ。



あとは、

自己主張の激しいヤツも、音楽家じゃねぇ。

ボーカリストやギタリストを中心に、

それなりの「自己主張力」みたいなモノは必要だが、

たいていのバンドマンは、自己主張が、強すぎる。うっとおしい。


オレから見ると、

ビジュアル系バンドのメンバーは、大抵、自己主張が強過ぎる。

まぁ、目立つことばかり考えてるから、

ハデな化粧をするんだろうけどもよ。


有名どころだと、

イエモン、ミスチル、スピッツ、サザン…

この辺のメンバーたちの控えめさくらいが、丁度良い。



他人事ばかりになっちまったけど…

俺のバンドの話をすると、

ギタリストが、少々、ウルサいんだ。

ヤツ、

引き出しは広いし、メロウなフレーズ・センスも、なかなかあるが、

いかんせん、自己主張が、強過ぎる。

バンドを、自分の表現の場だと思っていやがる。

バンドのメンバーは、

ボーカルを立てる気概が、必要不可欠なんだが…



それがどんなにヘッポコなボーカルでも、

ボーカルに敬意を表し、ボーカルを立てなくちゃいけねぇよ。

アイドル歌手のバック・バンドだって、そういうスタンスでやっているさ。


歌がまるでヘタクソなアイドル歌手が、腐るほど居るが、

お客を何十人も呼べるルックスやチャメっ気、パフォーマンス力があるなら、

それはそれで、敬意に値する。

それはそれで、一つの才能であり、能力だよ。



シガちゃん(ギタリストのことだ)は、

ギター・ボーカルであるフミユキの同級生ということで、

オレらのバンドに加わったんだが、

同級生ばかりであんまり固めるのも、なぁなぁになり過ぎる感がある。

…まぁ、オレとフミユキも、中学高校の同級生だが…。


フミユキは、友達思いなのは良いんだが、

それが少々過ぎるところがあるから、

シガちゃんが、自分の目立ちたい欲求でバンドを利用しているのを、

やすやすと許しちまうのが、やや、いただけねぇ。


実は、

ドラムも、シガちゃんの弟だったりするんだ。

コータロウという。

すると、

もし、シガちゃんを外すとなると、コータロウも外れるような流れに

発展しそうな雲行きがある。

オレらは、何度か、

メンバーの脱退と再加入を経験して来ているが、

ギターとドラムを同時に失うとなると、やや、建て直しに苦戦するだろうよ。

そのまま、自然消滅になりなそうな恐れがあるから、

オレも、ウカツに「メンバー外し」は言い出せねぇ。


…正直、

このバンドはもう、

メジャー・デビューとかそういう、大きな展開は、見込めねぇよ。

メンバー全員、そこを目指しちゃ居ない気もする。


『虚像のバンドマン』

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