top of page

エピソード20 『ミシェル2 -世界の果て-』

エピソード20

私は翌日の夜行列車で、南の町アスワンへと向かった。

アスワンにもユースホステルっていうのは無かったの。

どうも、エジプトにはユースホステルは無いのかしらね?

でも、物価が安いから、ちょっとしたホテルでも高くはないの。

ユースホステルと同じくらいの質の安宿を、歩き回って探したわ。

3ドルで個室に泊まれる宿が駅のほど近くにあったから、そこに決めた。

たまには個室にも泊まりたい。個室が安いなら無理にドミトリーには泊まらないわ。

でも、個室でも相部屋でも関係ないかもね。

だって、待ちわびた水色の町は、アスワンにあるらしいんだから!

夜行列車の到着は朝早かったから、私は荷物を置いたら早速散策に繰り出した。


水色の村ヌビアは、大きな川を渡った対岸にあるの。

川まで出ると、白い帆のまぶしい大きなヨットが、たくさん浮かんでいたわ。

オシャレでステキだけど、でもコレはダメなの。

このヨットはフルーカって言って、観光客用だから高いのよ。

これ以外にも、地元の人たちが生活のために使っている大きな渡し舟があるの。

それだったら1ドルで向こうまで渡れちゃう。フルーカは20ドルよ。そんなにも違うの。

渡し舟には、たくさんの人が乗り込んだわ。自転車やバイクを乗り入れる人もいた。

簡素な椅子はすぐに満杯になって、てすりや地べたに座る人も大勢いたわ。


対岸に着く。屋台の売店が1つか2つあるだけで、何もないところよ。

私が空腹しのぎに売店でスナック菓子を見ていたら、

いつの間にかみんな、方々に散っていっちゃった。

スナックをほおばりながらきょとんとしていると、正面からラクダに乗った人がやってきた。

私の前で止まると、「ラクダタクシーだよ。」と笑う。

「観光客用のピエロでしょ?」と私がいぶかしげると。

「ここにはこれしか無いんだよ。見ろよこの殺風景な島を。」

たしかに…。

「いくらなの?」

「どこに行きたい?」

「ヌビア村に行きたいの。」私はラクダの上のおじさんをまぶしそうに見上げながら言う。

見下ろされるってなんか嫌な気分。

「…わかった。5ドルだ。」彼は、少しの沈黙のあとに言った。

5ドルって高いのかしら?わかんないわ。距離もわかんないし。

大した額じゃないから言われたままに払うことにした。

彼は私をラクダの背の、彼の後ろに乗せると、

ラクダはのそりのそりと歩きだした。

ヤッホー!なかなか楽しいじゃない♪ラクダのお散歩。

ラクダって背が高いの。ストロークが長くてね、楽しい乗り心地。

時間が止まったような殺風景な島を、時間が止まったようなゆっくりなスピードで、

5分くらいまっすぐ進んだかしら。

真正面にはちょっとした山が、

ラクダ色の砂漠の山がそびえたってるのに、

ラクダのおじさんたら、迂回せずにまっすぐ進むの。

ついに山のふもとまで来ちゃったわ。すると。

「着いたよ。降りな。」って言うのよ。

「ここなの?」私は首をかしげながら、降りちゃったわ。

「ここが、岩窟墳墓群だ。」

「ガンクツ?違うじゃない!

 私、ヌビア村に連れてってって言ったのよ!?」

「そうだったっけか?この島に行く人は皆この遺跡を観光するんだよ。」

「みんながどうかは関係ないわ!

 私はヌビアに行きたいの!」

「そうか。じゃぁヌビアまで10ドルだ。」

「は!?」

「ヌビアはここまでの倍くらいの距離があるから、値段も倍で妥当だろ?」

「妥当じゃないわ!サギよこんなの!」

「じゃぁ、自分の足で歩くか?」

「ううう…!」足元を見るってこういうことを言うのね…!

「ふざけないでよ!

 さっき払った5ドルでヌビア村まで連れていきなさいよ!」私は食い下がる。

「俺を怒らせるのか?じゃぁ30ドルだ。」

「…!?」

何も言えなくなっちゃったわ。

どうする?素直に従ってもたらい回しにされるだけかもしれないし、

かといって、私にはヌビアの場所はわからない…

どうする?30ドル払ってでも従うしかないの!?

イヤよ!こんなヤツに30ドルも払いたくない!

「いいわ!もう結構です!」

私は、彼にはもう頼らないことに決めたの。

「いいのか?道もわからないのにおまえ、飢え死にするぞ?」

「いいわ!あんたとデートするよりは飢え死にのほうがマシよ!」

私は彼から離れたい一心から、ついなんとく、

目の前の黄土色の砂漠の山を、登りはじめちゃった。石を積み上げた階段道があるの。

ラクダに乗っている彼は山道までは追ってこず、

しばらく私の様子を見上げて、

そして降りてこなさそうと察すると、どこかに消えてしまった。


私は、とにかくこの岩窟ナンタラを登ってみることにしたわ。

観光の遺跡なんでしょ?いいじゃない、たまには観光すれば。

観光客は他には誰もいないけどね。

カイロで出会ったあの旅行者が言ってたわ。

ヌビアの島に上陸する旅行者はほとんど居ないって。

私は、殺風景な岩山をたんたんと登っていった。

途中、山の内奥に続く洞窟があって、その先にはカギのかかった部屋があったわ。

これがお墓なんでしょう。偉い人か誰かの。すぐに引き返す。

まだ上に登れそうな道があるから、さらに登ってみる。

だんだん風が強くなってきたわ。標高が上がると風って強くなるのよね。

頂上みたいなところに着いたけど、別に何にもないの。テーマパークじゃないからね。

道はなくなったけど、山はまだ三角すいを残しているわ。さらに上があるの。

てっぺんの辺りを見上げると、何か小屋みたいのが見える。

せっかくだから、そこまで登ってみることにしたわ。道はないけどね。登れそう。

5分も歩くと、ようやく小屋に到着。

何もないのよ。小屋があるだけ。

でも、島が一望できる。私は大きく伸びをして、とりあえず景色を楽しんだわ。

あんまりキレイな景色でもないけど…


…あれ!?


船着き場があった方角の、それよりちょっと左側。

そこだけなんだか、水色なのよ!島は一面黄土色の大地なのに、そこだけ水色。

ひょっとして、あれがヌビアなんじゃない!?

不幸中の幸いだわ!とりあえず行きたい場所は発見よ!

私は、山を吹き抜ける風で汗を乾かすと、急いで山を下りたわ。

そして、いったん船着き場まで戻り、さらに左のほうに向かって歩いた。


『ミシェル2 -世界の果て-』

Comentários


bottom of page