エピソード21
翌日、午後1時半頃、
約束通り、タケちゃんがお店にやってきました。
チユキちゃんと、その次女のユミちゃんを連れていました。
そしてもちろん、ムカイくんも、一緒に。
タケちゃんは、
すぐに、準備に取り掛かりました。
その間、私は、
店の仕事の傍ら、
彼女たちと話をしていました。
思った通り、ムカイくんは、
チユキちゃんとも、タケちゃんとも、
すっかり意気投合していました。
彼らは、
それぞれに変わり者でありながら、
誰とでも仲良くなれてしまう、懐の広さと柔軟さがあります。
この3人をくっつけると、
一騒動二騒動、起こりそうな気がして、ワクワクしました♪
残念ながら、
聴衆となる飲食客は、ほとんど、入りませんでした…
それでも、タケちゃんは、
手を抜いたりはせず、美しい声を聴かせてくれました。
彼は、
イーグルスや、デヴィット・ボウイのような、
しわがれた、でも、とても美しい声をしています!
それで、
イーグルスのバラードなど歌おうもんなら、
もう、鳥肌ものです!!
彼は、
「流しの歌唄い」として、
日本中のあちらこちらで、歌ってきているそうです。
…やはり、タイプとしては、
ムカイくんとそっくりです(笑)
タケちゃんが、
1時間ほど美声を振るうと、
「ワシ、もう疲れた!
おう、ムカイくん、歌うかー?」
と、彼にギターを差し出しました。
ムカイくんは、
ニヤニヤしながらスタンバイをすると、
彼のオリジナル曲を4~5曲、歌ってくれました。
ビックリです!!
一体、どうして彼は、
テレビに出ていないんでしょうか!?
四国の田舎町で、たった5人の聴衆の前で歌ってる場合では、ありません!!
地声は、かなり低いほうなんですが、
いざ、歌い始めると、
10オクターブくらい、高くなってしまうのです!
しかし、不思議なのです…。
彼に、「あなた、声が高いわねー!」と告げると、
「いや、僕は、
普通の男性ボーカルより、ずいぶん声が低いんスよ」
と、笑っているのです…
何が起きているんでしょうか!?
裏声を多用しているとか、そういうことでも、無いのです。
彼は、何か、
特殊な発声方法を、身に付けているようです。
とにかく、何をやっても、
常人とは違う仕上がりに、なってしまうようです…(笑)
ムカイくんが歌ったあとは、
再び、タケちゃんが歌いました。
時間が5時を回った頃、
タケちゃんは、「お開き」を宣言しました。
すると、
思いがけないことが起こりました。
「じゃぁ、僕、
そろそろ歩き始めますね♪」
「は!?何言っとんの!?」
一同、キョトンとしてしまいました。
「いやぁ、お遍路さんだからって言っても、
何食も、何晩も、お世話になるわけには、いかないでしょう?
だから、
ダラダラしないように、もう、行かなきゃぁ。」
私が口を開く前に、チユキちゃんが口を開きました。
「えぇー。もっと遊ぼうやぁ。
別に、先の予定は、無いんやろう?
ウチのプレハブに、しばらく泊まってきぃやー!」
「えー!?
そんなんアリなの!?甘え過ぎでしょう!!」
彼は、本当に、出ていくつもりだったらしい…
「私ら、アンタのこと、
もう、お遍路さんとしては、見てへんで?仲間やわぁ。」
私は、チユキちゃんに加勢をしました。
「仲間って…そりゃぁ嬉しいけど…
でも、寝床はチユキさん家のプレハブを借りるとしても、
食事までは、お世話になれないでしょう!」
私は、即座に、言いました。
「そしたら、いつでも、ウチの店に来ぃやぁ。」
「いや、それも、甘え過ぎだってば!」
この子は、何や、『タダ食い』をしたがらんのです。
「ほんなら、
仕事してもらうわぁ。
時々、店の裏庭の草むしり、してくれんかぁ?
その報酬で、ご飯食べさすわ。
それなら、文句無いやろ?
一ヶ月でもなんでも、居ればいいんよ。」
「それだったら、まぁ…
納得出来るけど。
そしたら今度は、
一ヶ月も、泊めてもらいっぱなしって、どーなの!?」
「そしたら、アレやわ!
チユキちゃん、近々、稲刈り始まるやろ?
あれ、手伝ってもろたら、ええわ!」
「わぁ、助かるわぁ♪
男手がタケちゃんだけじゃ、シンドイと思ってたんよぉ♪」
「えー!?
稲刈り、やらせてもらえんのー!?
だったら、留まる意義、大アリかも…!?」
「…そうなんよ!チユキちゃん!
ムカイくんも、チユキちゃんと同じこと、言いよるん。
手作業で、田んぼやりたいんやてぇ。
今、流行っとるんかいな…」
「へぇー!!
田んぼにも出会えるとは、思わなかった!!
じゃぁ、お言葉に甘えて、
しばらく居させてもらいます♪」
こうして、ようやく、受け入れてくれたのです。
『お遍路さんの集まる喫茶店』
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