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エピソード21 『天空の城』

エピソード21


れいは気を取り直して、また街の外に訓練に出た。

サントハイムにいる間にマンドリルと互角に戦えるようになりたいな、と目標を持ったが、なかなか骨の折れる課題だった。剣を振るう腕力だけでなく、身をかわしたり回り込んだりする敏捷性もレベルアップしなければならなそうだ。

目標は達成されないが、疲れたところで今日は訓練を引き上げた。



まだ昼下がり。もう少し時間を潰さないと1日は終わらない。

れいはお城に訪れた際、麗しいドレスを着た貴婦人たちと《皮の盾》を装備する自分との身なりの差に、少し虚しくなった。お姫様の格好をしてさすらうわけにいかないことはわかっているが、たまにはおしゃれをする権利も自分にはあるのではなかろうか。

城に近い、貴族が出入りするような界隈に足を踏み入れる度胸は得たので、「レディの服は幾らくらいするのかな?」と偵察がてらにウインドーショッピングをしてみることにした。

服を売る店だけでもたくさんある。へー!ほー!とささやかに感嘆しながら路地を歩いていると、なんとドレスを売る店の中に先ほどの大臣の姿を見つけた!「なんで大臣さんがこんなところに!?」

大「来週にもドレスを10着買うからな!2割マケたまえ。そして取り置きしておくんだぞ。このピンクのやつは絶対取り置きしておきたまえ!」とまた偉そうな振る舞いで、店主に冷や汗をかかせている。


なんだかあの大臣は、この国にとって有害な気がする。自分に何が出来るでもないが、暇でもあるし、れいは大臣の後をスパイみたいにつけてみることにした。

大臣は従者を連れて城へと戻っていく。れいは数十メートル後ろを、素知らぬ顔で静かに着いていく。

大臣は城の敷地に入ると、王の間へは戻らず裏庭へと抜けていった。「大臣が裏庭?」れいは奇妙に思った。

裏庭の奥、庭師もいない人気(ひとけ)のまったくないところまで赴くと・・・

ボン!

なんと、大臣は魔物へと姿を変えた!

大臣の正体はねこまどうだった!


れ「ひぃぃ!」思わずれいは声を上げる。

ね「むむ、何奴!?」ねこまどうにれいの存在を気づかれてしまった!

ね「貴様は!さっきの弱そうな冒険者!

 わしの姿を見てしまったら、生きて返すわけにはいかない。

 おまえら、一瞬で片付けるぞ!」

2人の従者はドラキーに姿を変えた!

れ「こんなところで戦闘になるなんて!」れいは驚き戸惑ったが、ひるまず剣を構えた。

3匹の魔物を一度に相手にすること自体、れいには初めての体験だった。しかし、昨日今日と積んだ訓練のお陰で、魔物の攻撃に対して体が勝手に反応して応戦できるのだった。身をかわすことが上手くなっており、盾で防ぐことが出来る。攻撃を受けてもいちいちひるまない。多少の痛みに耐えられる。

ドラキーは弱い。バサバサと飛び回られるだけでも邪魔なので先に倒した。


大臣に化けていたねこまどうと一騎打ちだ!

ね「ふははは。弱い冒険者め!」

威圧されると真に受けてしまうれいだった。「私のほうが弱いのだろう」と。自信を失うとひるんでしまう。

すぐに飛び掛かっていくことが出来ず、じりじりと動きながら相手の出方を伺う。

ひょっとして大声を出して助けを呼んだほうが賢明なのでは?れいはそんな消極手が頭をよぎった。そしてじりじりと後ずさりをした。敵の間合いからかなり離れ、命の危険をあまり感じなくなったそのとき・・・

ね「《メラ》!」

なんとねこまどうは、《メラ》の魔法でれいに攻撃してきた!

ね「ふははは。一発でイチコロだろう」

れいは青ざめた!火球を喰らって丈夫でいられるはずもない!

しかし絶望するれいの脳をよそに、れいの体はたくましく動いた。れいの左手は、昨日手にした小さな盾を、巧みにメラの軌道に合わせて瞬時に動かしたのだ。

バシーン!れいの盾はねこまどうの《メラ》を見事に弾いた!

しかし、その一撃で《皮の盾》はボロボロになってしまった!

「何発も応戦することは出来ない!」とれいは瞬時に悟った。すぐに勝負を決めなければ!

そしてれいは、勇ましくねこまどうの間合いに突撃し、《銅の剣》を力強く振り下ろした!

れ「えぇぇい!」

ブシュっ!

ねこまどうは杖を持っていた右肩に痛手を負う。しかし一撃では倒せない!

ねこまどうはれいの勇気にひるむと、意外な行動に出た。

ね「誰かー!助けてくれー!うつけ者だぁー!!」

れ「え!?」れいは驚いた!

そしてねこまどうは、再び大臣へと姿を変えた。大臣の右肩はひどく負傷している。

これはどう見ても、れいが大臣を襲っている構図でしかない!

近くの兵士が悲鳴を聞いて駆け寄ってくる。

兵「何事だ!」

れいは戸惑った。自分は正義だが、状況を説明してもわかってもらえそうもない。そればかりか悪者として死刑になるのでは!?逃げるしかない!逃げたら余計に怪しまれるような気もするが、逃げ切れれば怪しまれたところで生きながらえる。逃げるしかない!

れいは残ったチカラを、逃げ足に総動員して駆けだした!そして去り際、一か八か叫んだ。

れ「あの大臣は悪者です!!」

せめて、同時討ちだ!

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