top of page

エピソード21 『私の彼は有名人』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月26日
  • 読了時間: 3分

エピソード21

ゴーストでの活躍は、私にとっては少し、寂しかった。

もっと、みんなに彼を知ってほしいのだ。

それに、彼の歌声で歌われたそれを、聴いてもらいたいのだ。

いや、

私が右往左往しなくても、業界は彼を放っておかなかった。

以前、「将来が楽しみだ」と評してくれた音楽評論家のおじさんが、

ふと、彼に連絡を取ってきたのだ。

おじさんは、オリコンチャートを賑わせた曲の幾つかが彼のものであることを、

何となく、察したらしい。

そして、彼が表立って音楽活動を行えるように、

大手のレコード会社と、上手く繋げてくれた。


私が彼を見つけてから約3年、

ついに彼は、ゴールデン帯の音楽番組に、登場するまでになった。

彼の身辺は一気に騒がしくなり、華やかになった。

女性タレントの知り合いが一気に増え、交流も増えた。

…今度のライバルは、一般庶民じゃない。華やかな芸能人だ。

私はやはり、嫉妬心と戦わなくてはならない。

私はもっと、嫉妬心と戦わなくてはならない。


ライブツアーがあったりすると、1ヶ月以上も帰ってこなかったりする。

1ヶ月以上も、会えないのだ。抱きしめられないのだ。

え?物販の仕事はどうしたって?

大手事務所との契約に伴い、私のスタッフ作業は用無しとなった。

そういうのは、事務所のマネージャーがやるのだ。


やはり、寂しさはある。

やはり、嫉妬心にさいなまれる。


そんな愚痴を友人にこぼすと、

「別れて、普通のオトコと付き合えばー?」と言われる。

「そのほうがメリット多いよー」と。

そうだろうか?

私は今の状況に対して、寂しさは感じるし嫉妬心もぬぐえないが、

メリットが小さいとは、思っていない。

年に1ヶ月もツアーに出るとしても、11ヶ月は彼と会えるのだ。

100人の女性タレントが彼とおしゃべりしたとしても、

最も長い時間おしゃべりできるのは、やはり私なのだ。

私は、スターである彼を独占することは出来ないが、

かといって、100のうちの86くらいは、私が享受しているのだ。

たかだか14くらい、他の誰かにおすそ分けしてあげたって良いじゃないか。

もし彼と別れて他の男性と付き合うなら、

その86すら、無くなってしまうのだ。

もし彼に文句を言って、呆れられてしまうなら、

その86すら、無くなってしまうのだ。

0よりは86のほうが、ずーーーーーーーーーーーーっと幸せだ。

ずーーーーーーーーーーーーーーっと恍惚だ。


だから私は、14程度の空白は、黙って我慢する。

だから私は、14程度の嫉妬心は、黙って我慢する。



私は、経験から知っている。

自分のエゴを押し殺し、彼の自由を尊重してあげればあげるほど、

彼は発展し、そして結果的に、私も満たされる。

私がエゴをむき出しにするなら、

彼は最初は我慢して、私にゴキゲン取りをしてくれるだろうが、

やがてすぐ、私に愛想を尽かしてしまうだろう。


彼のために尽くせば尽くすほど、

いつの間にか、私も満たされてしまうのだ。

ステキな人を、選んだならば。


-----------------------------END--------------------------

2014/01/15 完筆


『私の彼は有名人』

bottom of page