エピソード22
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- 2023年1月31日
- 読了時間: 3分
ルクソールに到着したのは、
翌日の昼過ぎだった。
僕は、「日本食の食堂を持つ」と、ガイドブックに書かれていた安宿に、
チェックインすることにした。
屋上が食堂になってるんだけど、
屋上に行ってしばらく待ってても、だーーーれも来ない…
ようやくヒトを見つけて、
「何か食べさせてもらえる?」って尋ねたら、
「今は食事の時間じゃナイから、シェフは居ない」
と、言われてしまった。
そうかぁ…日本料理をウリにしてんだもんなぁ。
「他のヒトが代わりに…」
ってワケには、いかないよなぁ。
仕方なく、僕は、
表通りを歩いて、15時でもメシを食わしてくれる店を探したよ。
なるほど、
エジプトには、
ランチでもディナーでもナイ時間帯には、店じまいしちゃう飲食店が多かった。
個人営業の小さな店であればあるほど、その傾向は強いなぁ。
こういう時には、
チェーン店か、そのような雰囲気を持つ効率的なカンジの店に、
お世話になることになるんだよ。
それぞれ、上手く住み分け出来てんだよなぁ。
食事を済ますと、宿に戻ったんだ。
宿の主人らしき男は、
深緑のムスリム服(ワンピースみたく、ストンと着るヤツ)を着てて、
よく笑顔で話してたけど、目の奥が笑ってナイ人だった…
彼は僕に、
「国際学生証を作らないか?」と、持ちかけてきた!
バックパッカーなら、たいていは知ってると思うよ。
特に、タイなんかでは、盛んだろうなぁ。
国際学生証を「偽造」する、闇商売があるんだ(笑)
世界各地の遺跡やら美術館やらは、
「学生料金」ってのを設けてるところが、多いんだよ。
そういう時、学生証を持ってると、格安で入れることもあるから、
「海外放浪の玄関口」とも言われるタイのカオサン・ロードなんかで、
国際学生証を偽造しちゃうバックパッカーは、かなり多い。
僕は、「カルマの法則」ってモノをよく理解している人間だったから、
偽造してまでお金を節約することには、興味が無かった。
…ただ、
「国際学生証の偽造」というプロセスは、
バックパッカーの登竜門みたいな、おかしな風情があるから、
一度覗いてみたいなぁと、思った。
僕は、彼の誘いに応じることにした。
彼は、僕を後ろに引きつれ、メイン通りを向こう側に渡ると、
路地を幾つか曲がって、目立たない写真屋に入っていった。
写真屋って、
受験生が願書の写真を撮るときや何かに、
プロの写真家に3,000円だかなんか払って、撮ってもらったりするだろう?
ああいう店のことだよ。
深緑の店主は、
その写真屋のオヤジと悪どい笑みで挨拶を交わすと、
「オマエ、ココからなら、宿まで一人で戻れるよな?」
みたいなことを吐き捨て、
僕の返事を聞きもしないで、帰ってしまった。
僕は、5ドルほど払って、
国際学生証の偽造とやらを体験した。
まずは、カウンターに座って、
自分の身分を書き綴った。住所とか生年月日とか、そういうヤツさ。
学校の名前をローマ字で書けと言われたから、
その通りにしようと思って、躓いた!
僕が最後に出た学校は、
東京ナンチャラカンチャラウンチャラホンチャラ…
っていう、長ったらしい名前なんだ。
「ねぇオジサン、
マスの中に納まり切らないよ?」
って言ったら、
「アタマの『Tokyo』って字以外は、省いてしまえ!」
と、なんとも大雑把なことを言われた。
その通りにしてみたら、
僕は、「東京大学」の生徒ということになってしまった(笑)
僕は、この偽造学生証を、
この旅の間中、何回も、遺跡やなんかに提示してみた。
結果的には、全部の場所で学割の恩恵を受けられたけれど、
そのほとんどの施設で、疑わしい顔をされたよ(笑)
僕の外見自体は、ヒゲが薄いために、
外国人からは若く見えるようなのだけれど、
その学生証が、「偽装したのがバレバレ」という稚拙さだったようだよ(笑)
いつ、どこの正義感溢れる受付スタッフに、
警察に突き出されるかわかったモンじゃナイから、
くれぐれも、ご注意を(笑)
『導かれし者たち』