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エピソード22 『イエスの子らよ』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月3日
  • 読了時間: 3分

粉袋を運びにいくと、おばあ様とエルサがいたわ。

「どうしよう…。これ?」

私は、エルサとおばあ様に、もらったハンカチを見せた。

「あはははは!

 おばあ様の言ったとおりになったわね!」エルサがいたずらっぽく笑う。

「どういうこと?」

「うふふ。アタシ、マリアンヌに粉当番、任せちゃったでしょ?

 あれ、おばあ様からの入れ知恵だったのよ。」

「おばあ様!?」

「ひっひっひ!こういう展開になるじゃろうと思ってな。

 恋の始まりなんて、いつの世も同じもんじゃて。」

「恋!?」

「恋じゃろて!」

「恋じゃないわ!

 ありがとうって言われて、ハンカチ返してもらっただけよ。」

「そのハンカチが白かったなら、恋ではない。

 だがそのように柄付きなら、恋なんじゃよ!ほっほほ。」

「どうして?血で汚れちゃったのよ。私のやつは。」

「ニブいわねぇ!それは言い訳なのよ。

 あなたに贈り物をする、口実ってやつ!」エルサが言った。

「どういうこと?」

「いい?あなたのハンカチの汚れが、落ちないとしてもよ?

 それなら、同じような白いハンカチを、買ってくればいいじゃない?

 それなのにわざわざ、5倍も値段のする高級品を、買ってきたのよ?」

「高級品なの?これ。」

「あなたみたいなお嬢様にとっては、高級品じゃないんでしょうけど、

 貧しい修道士からすれば、一世一代の買い物よ!」

「どうしよう…」

「どうしようってあなた、

 あなたは彼のこと、好きじゃないの?」

「好き?好きかどうかなんて、わからないわ。」

「でも、肩に担いでて、イヤな気はしなかったんでしょ?」

「それはそうだけど、あのときは夢中だったし…」

「まぁ、戸惑うじゃろうな。それも乙女の常よ。」


頭の悪い私のために、エルサは力説してくれたわ。

「いい?じゃぁ整理して考えましょう。

 まず聞くけど、あなた、恋がしたいの?私はしたくないけど。」

「恋…。してみたいわ。いつかは。

 腕を組んで、パリの街を歩いてみたいの。」

「プププ。思いっきり月並みね!」

「もぉ!笑わないで!」

「ごめんごめん。

 それじゃ、2つ目の質問よ。

 その腕組む彼氏を、あなたはどうやって決めるつもりなの?

 あなたが恋する男は、どういう男なの?」

「それは…わからないわ。

 だって私、まだ恋ってしたことないもの。」

「そうよ、正解。あなたにはわかんないのよ。

 だったら、よ?

 最初の恋くらいは、相手の誘いに乗っかるしかないんじゃなくて?

 そうじゃないとあなた、お婆ちゃんになったって恋がはじめられないわ。」

「…そうね、たしかに。」

「いいんじゃない?修道士。

 前に言ったでしょアタシ。

 恋をするなら、修道士か庭師がいいのよ。」

「かといって、

 修道士と修道女の恋は、難儀じゃなぁ。障壁が高すぎる。

 まぁ、だからこそ燃え上がるんじゃ!良いなぁ、青春!」

おばあ様、楽しそう…。


それにしても、

おばあ様と一緒にいると、おとがめされにくいみたい。しゃべっててもね。

みんな、目上の人には怒りづらいんでしょうし、

おばあ様、あんまり好かれていないから、みんな関わりたがらないのよ。



『イエスの子らよ』

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