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エピソード24 『イエスの子らよ』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月3日
  • 読了時間: 3分

それから5年が経って、

私は成人棟に移ることになったわ。エルサともお別れ。

エルサも翌年、成人棟にやってくると思ってたら、

あの子、そこで退院してしまったの。

エルサ、高学院に進んで勉強に励むんですって。

親友を失うのは寂しかったけど、でも大丈夫。

エルサに助けてもらって過ごす間に、友達も知り合いも、増えていったわ。

いつしか私も、イスの座面を張り替えられるようにもなったし、

イスだって作れるようになった。お料理も音楽も、できるようになったわ。

おしゃべりばっかりしてたけど、できるようになるのよ。それなりに。

テーブルマナーも、もううっとおしくは感じないの。

キレイな姿勢でお上品にやるほうが、ステキって感じるわ。

自分から、そうしたいって思うようになるの。

こうして人は、大人になっていくのね。レディになっていくんだわ。



17才のある日、

お母様から手紙が届いたの。

ビックリしたわ!私、お母様に捨てられたんだと思ってたから。

私お行儀悪いから、愛想尽かされて捨てられたんだと思ってた。


お母様からの手紙には、

一度修道院を出てきなさいと、書いてあったわ。

贈り物があるっていうの。

その贈り物が、とってもヘンなのよ!


「あなたが修道院を出発するとき、

 城門から1マイル(約1.6km)離れたら、そこで真っすぐ後ろを振り向きなさい。

 それが、母からの贈り物です。」


ですって。

何のことやらサッパリよ。

やっぱりお母様、私には何も贈りたくないんだわ。嫌いなんですものね。

でも私、お母様の言いつけは守ることにしたの。

もう怒られたくないし、私ももう、グズる子供じゃないわ。

でも、1マイルっていうのはよくわからなかったから、

馬車の御者(ぎょしゃ)さんに、合図してもらうことにしたの。



出発の日、空はよく晴れていたわ。

2つか3つは雲が浮かんでて、羊の親子が仲良くお散歩しているみたいだったわ。

悪くない旅立ちよ。


馬車はちゃんと城門で待ち構えていて、私を乗せてくれたわ。

私は、7年前よりもずっとおとなしく座って、馬車に揺られていた。

馬車は相変わらず、パッカラパッカラ言っていたけどね。


5分くらい経ったかしら。

馬車の御者さんが、私に振り向いたの。

「お嬢さん、そろそろ1マイルほどかと思われますが。」

私は、それを合図に振り返ったの。


うわー!!!

驚いたわ!

7年前の私みたいに、はしたない声出しちゃったけど、

でも、しょうがないじゃない!驚いたのよ!


振り向いた先に見えたのは、

なんと、あのポストカードと同じ景色だったの!!

海に浮かぶ、美しいお城よ!幸せそうな羊の親子のオマケ付きで!

7年前に見たときより、もっともっと大きく見えたわ!大迫力よ!

「まぁー!なんて美しいの!!

 これって夢なの?そうじゃないわよね!?

 ちょっと、御者さん?

 少しでいいから、あの城に寄ってくださらない?ほんの少しでいいの!」

そしたら御者さん、何て言ったとおもう!?

「わははは!何をおっしゃるんです!お嬢さん?

 あなたは今、あの修道院から出てこられたばかりではありませんか!」



 2016/01/28 完筆



『イエスの子らよ』

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