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エピソード24 『真理の森へ』

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年3月18日
  • 読了時間: 4分

エピソード24

冬が来て、春が来て、短い貴重な夏が来ました。

フィンランドの企業は、夏休みを1ヶ月もくれるんです!

最低でも1ヶ月。有給などを組み合わせて、もっと長く取る人もいます。それが許されます。

「そんなことしたら、会社がモヌケの殻になるじゃないか!」

って、心配になります。

でも、大丈夫。

夏休みのシーズンは、学生が仕事を求めてあふれかえっているので、

その学生たちを雇うことで、最低限の労働機能は確保できるんだとか。

そういうふうにして、

みんながみんなのことを考え、助け合うなら、

先進国でも、こんなにゆったりした生活が送れる。


そうして1ヶ月も休みをとって、何をするのか?

フィンランドの人々はもっぱら、

森の別荘に繰り出すんだそうな!

多くの家庭が、森の中の湖のほとりに、

小さな別荘を持っているのです。なんてファンタジックなんでしょう!



カティとアンティも、

8月の1日から休みをとって、1ヶ月間もの森の別荘暮らし。

当然私も、ご一緒させてもらうことにしました。


なんてファンタジック!などとトキメいてはみたものの…

私たち日本人には、思いのほかキツいようです!

まず、市街地から離れた森の中ゆえ、電気・ガス・水道が通っていない…

湖から水をくんできて、森の木を薪にして、

かまどでご飯を作ります。

虫は無数に飛び交っているし、

夜の明かりはろうそくだし、ラジカセも鳴らせません。

トイレも、水洗であるわけがなく、かなり原始的でタイヘン。

そう、生活全体が、とても原始的なのです。

(…厳密に言えば、

 近年は、インフラの整った先進的な別荘も増えてきてるらしいのですが、

 カティたちの別荘は、古いタイプなのです。)


私にとっては戸惑うことだらけだったけど、

フィンランドの人たちにとっては、

子供のころから慣れ親しんでいて、そんなに苦に感じないようです。

やっぱ、慣れって重要なんだな…

これだけ不便であっても、

それでも毎年のように、1ヶ月もの長い間、別荘に来るのです。

フィンランド人は一見、繊細な文科系に見えますが、

その実案外、原始的でたくましかったりします。



カティもアンティも、

別荘について早々、素っ裸になって湖に飛び込みました。

早々水浴びなのにも驚きましたが、それ以上に、素っ裸です!

「恥ずかしくないの!?誰か見ているかもしれないよ!?」

まごつく私を尻目に、カティはノンキに笑っています。

「うふふ。いいのよ。

 言わなかったかしら?

 フィンランド人はね、友人なら異性でも一緒にサウナする習慣があるの。

 だから、裸を見られることにそんなに抵抗はないわ。

 2人か3人でも、裸を見せられる異性がいないと、

 リラックスして暮らせないわ。」

私はやっぱり、アンティに裸を見せるのが恥ずかしいので、

水着を着て飛び込みました。


湖の水は、キーンと冷たくて、とてもさらさらしていました。

海の水よりプールの水より、繊細な気がします。

その細かく透き通った粒子が、体中に染み渡っていく。

そうして、細胞の1つ1つまで浄化されていく感じがします。


カティやアンティの様子をみると、

仰向けになって、ただただ水に浮いています。

私も、真似してみます。

湖は海より浮力が小さいらしく、

子供のころに静岡の海で培った感覚のとおりには、いかない…

私は無意識にこわばり、どうにか上手く浮こうと、モソモソ地味にもがきます。


荒立つ波紋でそれを察知したのか、アンティが口を開きます。

「力を抜いてごらん?溺れても助けてあげるから。大丈夫♪」

私は、その優しい言葉にハっと我にかえって、

「上手く浮くためには何もしないほうが良いのだ」

という摂理を思い出しました。

そして私は、「アンティに助けてもらえばいいや」と開きなおって、

沈むのを覚悟で、体中の力を抜いていきました。


「ホラ!浮けた♪」

アンティは、私から20mも離れているのに、

なぜか私の状況を察知しているようです。

五感がとても研ぎ澄まされてるのか、それとも五感以外の部分で察知してるのか…



私は、そのまま心を鎮めて浮いていました。

何も考えずに。指先1つ、動かさずに。


私は、たゆたっていました。

すでに、体と水に境界線はなく、

「湖に浮いている」というよりも、「湖の一部になっている」という感じなのです。

とてもフシギで、神秘的で、面白い感覚でした。

「地球と一体になる」というのは、こういうことなのでしょう。

フィンランド人が環境保護に熱心なのは、

こんなふうに自然と一体になる経験をしていて、

自然への愛おしさがとても強いからなのかなと、感じました。


『真理の森へ』

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