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エピソード25

  • 執筆者の写真: ・
  • 2023年1月31日
  • 読了時間: 4分

翌日は、もう、

昼頃まで、宿でくたばってたよ(笑)


ルクソール街にある遺跡は、どれも規模が大きいから、

連日、かなり歩くことになるだろうさ。

その辺のことをしっかりと、アタマに入れておいたほうがイイね。


僕は、12時ギリギリにチェックアウトをして、

荷物だけ預けて、ルクソールの市街地を自転車で散策した。

昨日の影響で、腰がとても痛かったから、

ロクに歩けなかったけどさ…(笑)

土産物屋の立ち並ぶマーケットを眺めて、

どっかでお茶して、そんで帰ってきたかなぁ。


夕方頃。

宿に、荷物を受け取りに戻ると、

例の深緑のおっちゃんが、話し掛けてきた。

「オマエ、列車のチケットは、もう、取ったのか?」

「いいや?

 駅で買うつもりでいるからさ。」

「いや!駅に行ってからじゃ遅い!

 カイロ行きだろう?

 この時間帯から、急激に席が埋まるぞ!!

 オレが取ってやる!」

彼は、電話に手をかけながらそう言った。

「いやいや!イイよ!!

 どーせマージン取るんだろう?」

「マージンなんか取らないよ。

 オマエのために、言ってるんだ!

 早く席を押さえないと、大変なことになるぞ!?」

「あ、そう。アリガト♪

 じゃ、僕はもう、行くよ。」

そう言って、宿から飛び出して行ったんだ。


…覚えてるかい?

彼は、つい2~3日前に、

僕に国際学生証の偽造をあっせんしてきたんだよ。

それじゃなくても、

エジプトの商人たちはウソ付きが多いから、

「オマエのために」とか、「マージンを取らない」とか言ってても、

ウカツに信用出来ないさ。

だから僕は、

「コレも彼のダマしのテクの一つだ」と思って、パスしたんだ。


早めの夕飯を摂って、駅に行って、

チケット・カウンターに行ってみたら、ビックリ!

ものすごい行列が出来てんだ!!

20分も待って、ようやく僕の番が回ってきたと思ったら…

「外国人は、一番右の窓口だよ。」

と冷たく一掃されて、また並び直し…

更に30分も並んで、ようやく僕の番が回ってきた。

「カイロまで、大人一枚プリーズ!」

「カイロ?もうフルだよ!満席だ。」

「えー!!そこをどうにか!!」

「どうにもならないよ。

 明日また、リトライすればいい。」

同情もクソもナシに、淡々と話を終えようとする…

「明日じゃ間に合わないんだ!

 どうにかならないかなぁ!?」

僕は、尚も喰らいついて言った。

「ふー。めんどくせぇ客だなぁ。

 じゃぁ、

 とりあえず電車に乗り込んじまって、中でどうにかしな。

 後のコトは、知らねぇよ。」

と、仏頂面で言い放った。

僕は、その可能性に掛けてみることにした。

「まぁ、どうにかなるさ♪」

いつも通り、そう楽観視してたよ。

どうにかなるんだ。たいていはさ。


8時になって、電車が来て、

僕は、早めに乗り込んだ。

一等車がどちらか、慎重に見極めて、乗り込んだ。

とても混んでいた。

とりあえず、ルクソールから乗るヒトたちが全員座るのを、

ウロウロしながら待った。

幸いにも、幾つかは空いていたよ。

「ほーら見ろ♪」

と、僕は安心して、テキトーに座った。


列車が出発すると、

やがて、車掌さんか何かが、チケット確認にまわって来た。

全席指定なんだ。ちなみに、「寝台列車」ではなく、ただの夜行列車だよ。

僕は、その車掌だかなんだかに、事情を説明した。

「カウンターのおっちゃんに、

 『中でカネを払え』って言われたんだ!」ってさ。

すると車掌さんは、

「そうかい」と肩をすくめて、一等車の料金を徴収していった。

…しかし、僕には、

自分の座席を証明する半券のようなものは、発券されなかった…


20分も走ると、

列車は、次の駅に停まったよ。

降りるヒトなど一人も居らず、

新たに何人も、乗り込んできた!!

…まさかとは思ったけど、

そのまさかが、起きた…!!

「キミキミ、

 そこは私の席のようだがね?」

と、温厚そうな「ひげマリオ」が、

座席を証明する半券を、見せびらかしてきた!!

僕は、

「あれ!?ソーリー♪」

と、カンチガイしたフリして、彼に席を譲った。

「この駅で全員が席に着いた後、

 再び、空いてた席に座ればいいや♪」

と、考えてた。


…けれど…


200ばかしもあろうかという座席は、

ただの一つも、空いていなかった!!

二等車両に望みを託して、車内を歩いてみたけれど、

どうやら、

一等車両と二等車両は、隔絶されているようだった…!!

僕は、通りかかった車掌さんに訴えた。

「お金を払ったんだから、席に座らせてよ!!」

…でもそれは、

車掌さんにもどうにも出来ない問題だった(笑)


仕方なく僕は、

連結車両にスペースを見つけて、 そこにうずくまることにしたんだ…。

そこは、僕がこれまでに「お金を払って獲得したスペース」の中では、

最もヒドい環境だった…!!!

当然、イスなどはあるハズも無く、、

床はむきだしの鉄で、硬くて冷たかった…

「ひげマリオ」たちが吐き捨てたツバやタバコの吸殻で、

たいそうに汚れていた…

防音対策なんぞ取られているハズもなく、

車輪の走行音が轟々と響き続けた…

あちこちに隙間が空いてるから、

冷たい風が、びゅうびゅうと吹き付けた…

夜のエジプトは、ただでさえ寒いのに…

トイレがすぐ近いから、臭かった…

頻繁に乗客が行き来してて、

それもまた、やかましかった…


僕は、砂漠の夜のときとオンナジように、持ち物を駆使して、

出来る限りの防寒対策を取った。

Tシャツ類をぜーーんぶ重ね着して、

バスタオルを腹巻のように巻いた。

そして、

冷たく硬く、汚れた地面に寝転がって、

少しでも、睡眠を取ろうと目を閉じた。



『導かれし者たち』

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