エピソード26 『全ての子供に教育を』
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- 2023年3月14日
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エピソード26
デジャブの正体がわかった。
そうだ、俺、子供の頃、
今のプーマと全く同じ質問を、親父にぶつけたことがある。
そしてそのシーンを、繰り返し、夢で見せられ続けてきたんだ。
…馬鹿だった。
俺は、憎んでいた親父と同じことを喋っていたんだ。
愚痴をこぼすように、プーマにつぶやきかける。
「ねぇ俺、間違ってたのかな?」
プーマは答える。
「かもね。
日本人はみんな、勘違いしてるんじゃないかって思うよ。
言ったろ?
学校を寄付したがる連中には、日本人が多いんだよ。
でも、たいていどこの寄付学校も、
開校してすぐに、モヌケの殻になるんだ。
タクシーのみたく政治的強制力を持たない学校であれば、まず間違いなく、ね。」
「どうして?せっかく教育の環境が与えられたのに。」
「教育が与えられたっていうか、
タクシー、キミ、教育を『強制』しようとしたろ?
「強制?俺が?」
「そうだよ。
子供たちは学校なんて行きたがってないのに、
君は勝手に学校建てて、『来てください』って言ったんだ。
それ、『強制』っていうんじゃない?または、『押し付け』かな。
学校がどんな物か知らない子たちは、
とりあえず最初は、興味本位で顔を出すだろうし、新鮮な物を喜ぶだろうさ。
でも、それだけだよ。」
「………。」
俺は、黙って聞いている。
「学校がどんな物だかわかったなら、
もう別に、行きたいとは感じない。
たいていの子は、まだ勉強に興味が無いからさ。
または、『学校』ってシステムに面白みを感じないんだ。
「でも、勉強は役に立つだろう?」
「そうだよ。勉強は役に立つ。
けれど、やりたくない時に強要されたら、苦痛なだけさ。
やりたいと思ったときに、自分から学校に行けばいいんだよ。」
「その学校が無いから、困っているんじゃないの?」
「別に、困ってないよ(笑)
いいかい?タクシー、
オレ、学校のないこの村で育ったけど、
英語しゃべれるし、日本語もちょっとは喋れる。ビジネスも出来る。
つまり、学校や教科書が存在しなくたって、
勉強は行えるし、立派な大人になれるんだよ。
親に数を教わったり、イトコに英語教わったり、すればいいだけだよ。
興味のある奴は、俺みたいに、さっきの子みたいに、
自分から『教えてくれ!』って頭下げにいくし、登校時間が朝早くても遅刻しないよ。
それを、キミたちみたいな先進国だと、
子供らに対して一律に、強要しようとするだろ?押し付けるだろ?
『義務だ』とかって強要されるから、
タクシーみたくノイローゼ・フェイスになっちゃうんだよ。
それに、
学がないと暮らせないような大人社会を造るから、酷いことになるのさ。
オレらの村みたいに、無学でも暮らせるような仕組みにしたらいいのに。
簡単だよ。競い合うんじゃなくて、助け合えば良いだけさ。
騙すヤツが居ないなら、算数ができなかろうが騙されたりはしないんだ。
オレは、思うぜ?
『国民皆教育』みたいな制度は、人間を幸せにしたりは、しないさ。
繰り返すけど、
それって、教育を『与えている』んじゃなくて、『義務付けている』だけだから、
苦痛にしか、ならないだろうよ。
考えてもみなよ?
ジャパニーズの中に、義務教育を喜んでる人って、何%いる?
せいぜい、5%か10%くらいな少数派だろう?
君だってティーンの頃、勉強が嫌だったんだろう?
それなのにどうして、平和な村に学校を押し付けるんだい?」
「…………。」
「もう1回尋ねるけどさ?
タクシー?教育って何のためにあるんだ?」
「だから、幸せに暮らすためだよ。立派な大人になるためだ。
…いや、違う。それは親父の意見だ。俺の意見じゃない。
そうだな…
要するに、飢え死にしないためには、やっぱ教育が必要だよ。」
「『飢え死にしないため』か!はっはっは!
いよいよキミ、盲目してるよ!はっはっは!」
「なに!?」
「だってそうだろ?
飢え死にしないようにしてやりたいんなら、
学校に通わせるよりも、チャーハンの作り方でも教えたほうが良いんじゃないのか?
それにニンジンの育て方とかさ?」
「…!」
「はっはっは!
二次関数と料理と、
人生での使用頻度が高いの、どっちだよ?
料理だろ?料理のほうが100倍は使うさ。
それに農業のほうが100倍は大事だよ。国語よりも数学よりもさ。
それなのに、
日本の家庭じゃ、子供に料理なんかさせないだろ?
オレ、知ってるぜ。日本の小学生はチャーハンすら作れないだろ!
だから、ママがいなきゃ一日で飢え死にしちまう。
いったい教育にいくら払ってんだ?何千時間費やしてんだ?
それだけ費やしておきながら、一日すら食いしのげないなんて。
教育が教育になっていないんじゃないのかな?」
「………」
一理どころじゃない。五理も十理もある。
『全ての子供に教育を』