エピソード27 『「おとぎの国」の歩き方』
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- 2023年3月4日
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5日目。今日はよく晴れてる。
「ねぇお爺さん?
ところで、そのカメレオンって村、何なの?」
「ほっほっほ。おぬしのようなパゥオ(勇者)ばかりが集っておる。
善人だか悪人だか、ようわからんようなやつらがな。
おぬしはまぁ、例外の部類じゃが、
龍たちはたいてい、俗社会にへきえきするときがくる。
自分がやるべきことは他にあると、そう感じるようになる。
そういう者たちが、導かれておる。己れのダキニにな。
そこには、龍を持つ者、さらに、その龍を飼いならすことのできた者が、
集まることになったんじゃ。精鋭揃いということじゃよ。」
真昼に差し掛かる手前くらいだったろうか、
僕はついに、そのカメレオン村とやらに、たどりつく!
驚いたよ!
その景色の美しさにさ!
こりゃまるで、おとぎ話の世界だよ!
殺伐としたアジアの山ん中に、こんな村があるなんて!
村は、山あいの大きなくぼみ、盆地の中にあった。
家屋はヨーロッパ風のとんがり屋根の形をしていて、
それがさ?屋根も壁も、びっしりと緑のツタに覆われてるんだ!
どの家も、この家も、その家も、びっしりと覆われてる。
今日が晴れの日で良かったよ。
日の光に照らされて、ツタは透けるような若草色で、
とんでもなく美しく、光り輝いてる!
ツタにはところどころ、チョウチョが飛ぶように黄色や白やピンクの花が咲いて、
ツタの緑に鮮やかな差し色をしている。
どの家の庭も、庭園みたいに花が植えられ、綺麗に整えられててさ。
「お爺さん!とんでもないね!とんでもなくキレイだよ!
誰か、有名なデザイナーが設計したの?」
「ほっほっほ。
元々はな、美のためではなく、目隠しのためのツタだったんじゃ。」
「目隠し?」
「ここは人知れぬ者たちの住む場所。容易に知られては困るからな。」
「こんな山の中だもん。バレたりしないよ?」
「昔はな。そうじゃった。
しかし、機械の時代が来て、そうも言っていられなくなった。
飛行機技術が進み、映像技術が進んだなら、
必ずやよそ者が、この村を突き止め、その平穏を汚すと案じられた。
そこで、村の者たちは考えた。
上空から眺めても気づかれないようにするには、どうすればいい?
その答えとしてひねり出されたのが、ツタによるカムフラージュ。
家や建造物を、軒並みツタで覆うことにしたんじゃな。
もちろん、一朝一夕に完成するものではない。
家をまるごと覆いつくすまでに、10年は掛かったろう。
村をカメレオンと呼ぶようになったのも、それからじゃよ。」
『「おとぎの国」の歩き方』