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エピソード2 『マイウェイ -迷路の町のカロリーナ-』

いいのよ、別に。バスケット係、悪くないし。

それにパパ、スタンプが10個たまったら、ゴホウビくれるのよ。

行きつけのカフェテリアで、ティラミスごちそうしてくれるの。私、ティラミス大好き!


そのカフェテリアは、家から路地を3つ曲がったところにあるわ。すぐ近く。

すぐ近くだけど、きっとこれだけのヒントじゃ、あなたはたどりつけないわ。

だって、私の町、迷路だから。

曲がり角がいくつもあるのよ。だから、角をテキトーに3つも曲がるなら、

ぜんぜん違う場所にたどりついちゃうかも。カフェテリアじゃなくて、井戸に着いちゃうわ。

まぁ、どちらにせよノドの渇きはうるおせるし、世間話もできるけど。


そのカフェテリアは、「天使の待ちぼうけ」って名前なの。

ヘンな名前でしょ?ヘンな名前なのよ。

お店の正面のカベに、カウンター席があるんだけど、

その一番左はじの席の壁に、ほおづえついた天使が描かれてるのよ。

つまんなさそうに、ふてくされた顔の、子供の天使の絵。

待ちぼうけくらっちゃってるらしいの。お友達はきっと、井戸に行っちゃったんだわ。


パパのお仕事が終わって、夕方の5時、

「天使の待ちぼうけ」に行ったわ。

パパはいつもどおり、マスターと向かい合えるカウンター席に座ろうとしたんだけど、

おあいにくさま。今日は先客がいたわ。

どうもマスター、そのお客さんと押し問答してる。

「君は客を侮辱(ぶじょく)しているのかね!

 カフェにイスが無いなんて、どういうつもりだ!?

 一気飲みして、5秒で帰れと言うのか!?」

「まぁまぁ落ち着いてくださいよ、お客さん。

 お客さんの国では違うんでしょうが、この国ではこれが常識なんです。」

「何がかね?客を5秒で追い返すことが、か?」

「そうではありませんよ。

 イスが無く、カウンター席ばかりであることが、です。

 私たちの国のカフェテリアは、こういう文化なんですよ。」

「ずいぶん不親切な文化じゃないか!」

「不親切?いえいえ、逆ですとも!親切心ゆえです。

 イスを置かない代わりに、コーヒーがとても安いんですよ。

 1杯100リラで飲める。お客さんの国の半値でしょう?

 お客さんきっと、フランス人だ。」

「そうだ。いかにも私は、フランス人だ!」

そうなのよ。私たちの国のカフェテリアには、イスなんて無いの。

でも、仕事の合間にちょっと立ち寄ってコーヒー飲むのに、

ソファーに腰かける必要、ある?

それじゃ、カウンターのマスターとおしゃべりもできないわ。

カフェテリアっていうのは、コーヒーを飲むところでもあるけれど、

マスターとおしゃべりするところでもあるのよ。

それを知らないと、良い大人にはなれないの。

パパみたいにはなれず、お姉ちゃんみたいになっちゃうわ。


ソファー好きのフランス人が帰っていくと、

パパはいつもの指定席に移り、マスターに「いつもの!」とオーダーをした。

「ぷはー!仕事終わりの1杯は美味いな!」パパは伸びをしながら言う。

「仕事が終わったなら、コーヒーじゃなくて酒を飲んだらいいのに?」

マスターは、ティラミスに仕上げのコーヒーパウダーを振りかけながら言う。

「はっはっは!酒は高いからね。コーヒーは庶民の味方さ。」


マスターは、ポパイみたいな人なの。

ポパイって知ってる?私は知らないけど。筋肉ムキムキなのよ。

コーヒー淹れるのに、ムキムキの筋肉なんて要るのかしら?知らないわ。

「はい。ティラミスね。」

マスターは、機嫌よく私の前にティラミスを置いた。

今まで疑問でしょうがなかったこと、今日こそ聞いてやるわ。

「ねぇマスター?

 このお店の名前は、どうして『天使の待ちぼうけ』なの?」

「どうしてって?そりゃ親切心からだよ。」

「親切心って!私はさっきのフランス人じゃないんだから、

 別にマスターのこと怒ってないわ?」

「はっはっは。知ってるよ。実際、親切心なんだ。

 カフェテリアを、待ち合わせ場所に使う人たちは多い。

 かといって、待ち合わせに遅刻するヤツは、もっと多い!」

「来る人より遅れてくる人の数が多いなんてこと、ありはしないわ。」

「はっはっは。

 まぁそうだけど、それくらい、みんな時間にルーズってことだよ。

 だから待ってる側は、2杯も3杯もコーヒーを飲まなきゃならない。

 それはウチの売り上げにとっちゃありがたいけど、

 でも、待ちぼうけなんて、かわいそうだろう?

 来るかわからん人を不安げに待つなんて、世界で一番不幸さ。

 だから、店の名前に『待ちぼうけ』を入れたんだ。

 すると、客はいつでも思い出すだろう?

 『あ!待ちぼうけさせちゃイカン!』ってね。はっはっは。」

「マスター、ホントに親切なのね!?」

「はっはっは。フランス人もイギリス人も、信じちゃくれないけどね!」

「それでいいのさ!」パパはニヤニヤと笑う。「町のモンは知ってるよ。」



『マイウェイ -迷路の町のカロリーナ-』

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