エピソード2 『人魚たちの償い』
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- 2023年3月28日
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エピソード2
そして私たちが生まれてくるわけなのだが、
私たち子供に関しても、やはりちょっと変わっている。
普通、優秀な医者の家庭には、
優秀な頭脳を持った男の子が、長男として生まれてくる。
長子として男の子が生まれたのは、そのとおりであったけれど、
我が家の長男は、成績優秀とはほど遠かった。
勉強はまるでだめで、優等生でもない。外で遊びまわってばかりいた。
両親は意外に思い、また、少なからずショックでもあったらしいけれど、
家業を継ぐようなことを子供に強要するような、狭い人間ではなかった。
兄は、名前をアントニーといった。当初、13歳だった。
私は私で、母親似と言えるのかはわからない。
共働きであるからなおさら、母よりもアントニーと過ごす時間が多かったため、
私は自然と、アントニーの背中を追いかけ、
アントニーと同じように広場をかけまわっていた。
ただ、父から言わせれば、私は母に似ているらしい。
アントニーが噴水の英雄像から飛び降り、ケガをするたびに、
誰よりも早く駆け寄り、ハンカチで止血をする5才児だったらしい。
アントニーは自由奔放で、優等生でもなかったけれど、
私は決して、アントニーが嫌いではなかった。
彼は、わんぱく者ではあっても、乱暴者ではなかった。
幼いうちから、妹の私に手をあげるようなことはほとんど無かった。
彼は、太陽のように人を元気にする、不思議な魅力を持っていた。
ある意味では、彼は父に似たのかもしれない。そしてユベールおじいさんにも。
ユベールおじいさんは画家じゃないのに絵を描いたが、
アントニーは、医者じゃないのに人を元気にするのだ。
女というのは、どうもナイーブな生き物で、
太陽のように陽気にしてくれる人を、どこか求めるようなところがある。
私は、名前を、タニアという。当初、12歳だった。
『人魚たちの償い』