エピソード30
…私は、もう、涙が止まらなかった。
レノンさんはいつもノー天気にマイペースだったけど、
それは実は、ちみつに計算されていたのだ。
後輩たちのために。お客さんのために。そして、私のために。
彼の何気ない一挙手一投足が、その全てが、お手本だったのだ。
「愛」というものが、
どれほど尊く暖かいものであるか、痛感させられた。
「可愛い子には、旅をさせよ」
という言葉の意味も、痛いほど、よく解った。
私は、外の世界で、
辛い思いもたくさんさせられたけれど、
それらが全て、私の血となり、肉となっている。
私は、確実に、強くなった。
見識が広がっただけじゃなく、強くなった。
肉体的にも、精神的にも、強くなった。
レノンさんと働けないし、レノンさんを犠牲にしたとあって、
「正規スタッフ」に昇格したことは、まだ、素直に喜べなかった。
けれど、
彼が、身を捧げて空けてくれた『イス』を、
私が精一杯全うするしか、なかった。
彼がこの図書館で行っていた業務と、
そして、『ささいなふるまい』の数々を、
私は、可能な限り、引き継ぎたいと思った!
私もまた、
自分より若い世代に、
彼の『遺産』を、引き継いでいくのだ。
それが、自分の使命であるように、思えた。
家庭でも学校でもない場所で、
家族でも教師でもない人々から、
こんなにも多くのことを学べるのだと、痛感した。
当面の、私のメイン・フィールドは、
読み聞かせ会だ。
あそこで、家族でも教え子でもない子どもたちに、
私は、何を伝えられるだろう?
本の内容だけでなく、私の一挙手一投足が、
子供たちの人格形成に、大きく影響するはずなのだ。
『ヒミツの図書館お姉さん♪』