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エピソード30 『ミシェル2 -世界の果て-』

エピソード30

そういうわけで、

私はここシャウエンで、エリスと一緒にしばらく暮らすことになったの。

工房に寝泊りさせてもらうのよ。部屋を1つあてがってくれたわ。

食事は自炊だけど、それも工面してくれるって。

おかげでタジンの作りかたも覚えたし、クスクスも好きになったわ。

仕事は、旅行者向けの大きなレストランでウェイトレスをすることになったの。

これもエリスが口利きしてくれたのよ。



そうして3週間も経ったある日のこと…

朝早く、私は朝食の準備をしていて、エリスは工房の掃除をしていたわ。

「ごはん出来たよ。」工房のエリスを呼びにいったそのとき、

まるでこの町に来たときの私みたいに、場違いな時間に、

この工房に来客があったの。

その彼は、第一声で驚きの声を上げたわ。

「な、なんでここにミシェルが…!?」

私のほうがもっと驚いたわよ!

その彼とは、レオナルドだったんだから!!

タイの僧院で修業しているはずのレオナルドが…!!


レオナルドも加えて3人で、中庭で朝食を囲んだわ。

「えーっと、何から聞けばいいんだっけ?」私はドギマギしたわ。

「それはこっちのセリフだよ。なぜミシェルがシャウエンに?」

「それはカンタンなことよ。

 レオからのポストカードがシャウエンの絵だったから。」

「それでシャウエンに?」

「そうよ。だって…。

 あ、ちょっと待って?」私は急いでポストカードを取りにいき、

そしてその裏面を、レオに見せた。

「文字がにじんじゃってて、読めなかったの。

 何て書いてあったの?」

レオは滲んだポストカードを見て、唖然としていたわ。

しばらく考えたあと、レオは言った。

「エリス、ちょっと席をはずしてくれないか。 

 いや、僕たちが動こう。」

私たちは、私の部屋に移動したわ。


「それで、ポストカードには何て書いてあったの?」

「君の夢を見るんだ。」レオはおぼろげに言った。

「え?」私は聞き返す。

「『君の夢を見るんだ。』って書いたんだ。ただそれだけさ。」

「君のって、私の夢を、レオが見たってこと?」

「そう。そういう意味だよ。」

「どういう意味?それって。」

「……。

 わからない。

 君のことが気になっていたのかもしれない。

 わからない。

 君の夢を何度も見るから、君のことが気になったのかもしれない。」

「そうだったの。

 なんだかよくわかんないけど。

 でもレオが困ってたわけじゃなかったなら、安心したわ。

 ひょっとして『助けて!』とか書いてあるのかと思って。」

「それで、シャウエンまで来てくれたのか!?」

「え、えぇ、まぁ。

 大変だったわ。最初、シャウエンってわからなくて、

 エジプトの南の村に行っちゃったの。

 幽霊屋敷に泊まったり列車の床で寝たり、大変だったのよ。」

「そうだったのか、すまない。」

「いや、いいのよ。

 私が勝手にやったことなんだもの。」

「……。」レオは少し考えている。そして言う。

「牧師の話を聞かないミカエル。」

「なぁに?」絵を描くライオンさん。

「キミ、旅が好きか?」

「好きよ。好きになったわ。シャウエンに来る間に。」

「『旅行』じゃなくて、『旅』だ。

 高価なホテルに泊まったりする道楽のことじゃない。」

「わかってるわ。秘密基地みたいな旅のことでしょ?」

「え?」

「私、高価なホテルなんて最初の日1回しか泊まってないの。

 あとはぜーんぶ、ユースホステルか幽霊屋敷か列車の冷たい床よ。

 それで秘密基地の人たちみたいな面白い人たちにいっぱい出会って、

 彼らに助けてもらいながらここまで来たのよ。」

「タフなんだなキミ。見かけによらず。」

「えぇ。ウィリアムスさんのおかげでね。」

「ウィリアムス。そういう名前の彼氏がいるのか。」

「ウイリアムスさんが彼氏!?違うわ!

 彼は先生よ。秘密基地の先生なの。

 秘密基地って言うのは、私の町の学童みたいな場所のことよ。」

「学童の教師に恋をしたのか。

 いいんじゃないか?別に。教師と生徒が恋しても、僕は問題ないと思うけど。」

「恋じゃないんだってば!

 ウィリアムスさんにはいろんなことを教わったって、単純にそう言っただけよ。」

「そうか。すまない。」

「レオは、何してたの?タイに行ったって聞いたけど。」

「うん。タイに行ったんだ。

 シャウエンで出会った東洋の旅人に、仏教の話を聞いた。

 仏教では神に祈るんじゃなくて、寺で修業をするらしい。

 それに興味を持ってね。タイに行ったんだ。」

「楽しかった?」

「楽しいことは色々あったけど…、

 でも、タイの仏教には少々失望してね。」

「そうなの?」

「タイの仏教もあまり大差はなかった。

 大きな仏像を造って、それで観光客を呼んで金を集める。

 そんなことばかりやっている。」

「そういうのも幾つかはあるんじゃない?どこだって。」

「そうなんだ。後で聞いたところによると、

 北のもっと田舎のほうに行けば、まともな僧院もあるらしいんだけどね。

 当時はそんなこと知らなくて、

 だからタイは抜けてチベットに行くことにしたんだよ。

 チベットは秘境と言われる国でね、もっとストイックな仏教があるって聞いて。

 それにチベットの仏教は、宇宙の真理についても伝承があるらしいんだ。

 それでチベットに行ってみたんだよ。

 チベットの山の中に、外国人でも受け入れてくれる僧院を探した。

 そこでしばらく生活したよ。」

「どんな生活なの?興味があるわ。」

「聞きたいかい?つまらない話だよ。」

「聞きたいわ。」

「男しかいない。恋愛は禁じられてるんだ。

 修行のあとには恋愛していいらしいけど、修行中は我慢をする。

 生活はきわめて質素だよ。そしてストイックだ。

 朝は4時半に起きる。太陽よりも早起きだ。

 それでまずは掃除をする。1時間ぐらいやる。

 掃除が済んだら朝食の準備をする。

 コックなんかいなくてみんなでやる。まぁ簡素な料理だけどね。

 それで食事をする。広いお堂でみんなで食事する。

 食事は質素だ。肉は食べない。魚も食べない。スイーツもない。

 朝食が済んでもまだ6時半。

 それから農業をする。僧院で食べるものはほとんど自給自足だよ。

 大きなトラクターとかがあったりはしない。クワで耕す。

 午前中はずっと農業をやっている。

 11時半になったら昼食の準備に取り掛かかり、そしてまたみんなで食事を摂る。

 食べたら少し寝る。寝なくてもいいけど休憩をする。

 2時に起きて、ヨガを始める。」

「ヨガ?」

「そう。柔軟体操みたいなもんだよ。筋力もけっこう使う。

 チベットの僧たちはサッカーもテニスもやらないから、

 ヨガで体を鍛えている。2時間くらいやってる。

 夕方から夕食までは自由時間がある。2時間ぐらいね。

 それぞれ好きに過ごしているけど、静かに本を読んでいるやつが多い。

 っていうかみんなすごく静かだよ。ぜんぜんしゃべらないし、

 しゃべるとしても静かにしゃべる。怒るやつはいないし大笑いするやつもいない。

 仲が悪いわけじゃない。誰もが他人に対して優しい。

 6時になったらまたみんなで夕食作って、食べる。

 食べたら風呂に入って、9時にはもう寝る。」

「聖書のお勉強はしないの?」、

「牧師が語るようなものはない。

 自由時間の読書が、もっぱら霊的な書物だよ。

 どれだけ理解しているか試験で試したりもしない。」

「休日は無いの?」

「定休日という概念は無いね。水曜も日曜も同じように続ける。

 そもそも僧院のやつらは曜日なんてものを考えない。日付けもね。

 自分の年も知らないよ。彼らは。

 定休日は無いけど、休みは取れる。

 下山して実家に帰ったり、旅行に出たりすることは許されてる。

 申請すればいつでも出れる。

 あとは、僕が訪れたときみたいにちょっとした出来事があると、

 農業にせよヨガにせよ日課は中断される。

 こんな感じかな。」

「つまり、修道院みたいなもの?」

「そうだね。東洋の修道院だ。同じようなものだよ。」

「そこで生活してたの?」

「そうだよ。50日くらいいた。」

「何か学んだことはあった?」

「コーラを飲まずに我慢できるとは思わなかったよ。

 甘いものが何も無いっていうのは、最初の3日はけっこう辛かったね。

 でも案外、慣れるもんだね。無いなら無いでどうにかなる。

 次に、農業ができたのは有意義だったね。

 学べたというほど詳しくなってはいないけど、

 土いじりの面白さを知った。これなら田舎でも暮らせる。」

「宇宙の真理っていうのは、学べたの?」

「そういうのは基本的に、自由時間に本で独学しなきゃならない。

 僕はサンスクリット語が読めないから、知識を得ることはあまりはかどらなかった。

 でも少しは勉強したよ。話せばみんなが教えてくれる。

 たとえば、人が何のために生まれてきて、輪廻転生するか、考えたことある?」

「忘れものしちゃったから取りに帰ってくるんじゃない?」

「はは。あながち間違ってない。

 人間は、7色のオーラを高めるために人間をやってるんだ。

 体を鍛えれば赤いオーラが身につくし、

 勉強をすれば黄色いオーラが身につく。

 自然を愛すれば緑のオーラが身につくし、

 芸術に打ち込んだら青いオーラが身につく、

 奉仕をすれば紫色のオーラが身につく。

 座禅瞑想をすれば、藍色のオーラが身につく。」

「オレンジは?」

「……。」

 言っていいのかな?キミ若いけど。」

「なぁに?」

「セックスだよ。」

「!?」

「セックスをすることでオレンジ色のオーラが鍛えられる。

 だけど、セックスは身を滅ぼすことになりやすいから、

 仏教ではセックスのプロセスは後回しにする。

 先に他のオーラを鍛えるし、その間に自制心とか分別を身につけておく。

 まぁとにかく、いろんなことを毛嫌いせずに打ち込んで、

 7色のオーラを高めることが、人間が600万年も生きてる理由なんだ。

 富を築いて女をはべらすために生きてるわけじゃない。

 快楽にかまけて死んでいったやつは、

 つまりキミが言ったとおり、6つも地球に忘れものしてるから、

 それを取り戻すためにまた生まれてくる。

 労働は大事だけど、人生の主目的じゃない。

 他にもやるべきことはたくさんあるんだけど、

 先進国は労働とお金に価値を置きすぎてるから、

 7色のオーラを全部高めることは難しい。」

「つまり、みんな秘密基地で暮らせばいいんじゃないの?」

「キミの言う秘密基地っていうやつが、学校以上に多目的な場所なのであれば、

 まさにその通りだよ。そういう学び舎が、あらゆる町にあったほうがいい。

 例のウィリアムスっていう人が、あと1万人くらいはいたほうがいい。

 僕は、腑に落ちたんだ。

 僕はいっぱしの大学を出ていっぱしの企業に勤めたが、

 そういう人生にあまり意味を感じられなかった。ずっと。

 もっと何かを見つけたかったし、もっと成長したかった。

 だから旅に出た。

 旅は面白かった。答えが無いからさ。それでいて難しい。

 これを上手くやってのけるには、ものすごくいろんな能力がいる。

 僻地に行けばいくほど面白い。だから世界の果てまで行きたくなった。

 旅は楽しいけど、それでいて勉強になる。

 最も効率よく、最も様々な能力が身につく。」

「それなのに、旅をやめて僧院に入っちゃったの?」

「そうさ。旅では磨けない能力もあるからね。」

「それで、どうして出てきたの?」

「そうなんだ。

 僕は僧院で、座禅瞑想というやつを教わったんだけど、

 それを毎日やってたら、いつしか霊聴が開いた。」

「霊聴?」

「そうだ。霊的な者の声を聞く力だよ。」

「ブルーベリーの妖精とか、そういうこと?」

「ブルーベリーは知らないが、まぁそういうことだよ。

 僕は僕の守護天使の声を聞いた。」

「なんて言われたの?

 『もう僧院を出なさい』ってね。

 ちょっとビックリしたけど、まぁでももう飽きてきてたから、

 良いキッカケだったよ。」


「それで、シャウエンに戻ってきたの?」

「違う。僕はさらに高みを目指した。」

「もっと高い山に登ったの?」

「違うよ。人間成長の意味でだよ。

 もっとすごい世界が、どこかにあるだろうと思った。

 いや、そういう噂を聞いたからさ、僧院の仲間に。

 シャンバラって知ってる?」

「シャンバラ?知らないわ。」

「崑崙(こんろん)山脈の奥に、7色のオーラを全部持った人たちの暮らす、

 隠れ里があるらしい。7,000m級の険しい山の奥に。」

「世界の果ての、そのまた果てじゃない!」

「そうさ。その通りだ。世界の果ての、そのまた果てだよ。

 そこでは、さらに6つのオーラの修行をしているらしい。

 虹の7色だけでも大変なのに、さらにまだ倍くらいあるんだぜ?

 気が遠くなるけど、でも興味があった。まだまだやることがある。

 13色のオーラをまといたい。誰よりも大きく。

 だから、シャンバラを目指してみることにした。

 シャンバラがどこにあるかは誰も知らないんだ。隠れ里だからね。

 だから、行方不明者が多く出ると言われる地帯に行ってみた。

 そこで山登りを敢行した。

 でもさ、途中の小屋で引き返してきた。」

「どうして!?そこまで行ったのに!?

 おじけづいちゃったの!?」

「おじけづかないさ。死んでもいいと思ってたから。

 元々この旅は、死んでもいいつもりで出てきた。

 小屋で出会った老人に言われたんだ。

 『君は、13色のオーラをまとう以上に、やるべきことがある』ってね。

 『シャウエンに戻って啓蒙をしなさい』って。

「啓蒙?」

「そう。人に教えるってことだよ。

 でも僕は教師のガラじゃない。霊的な真理もよく知らない。」

「でも、『それでいい』って言うんだ。

 『旅人であればいい』って。『それだけで啓蒙になる』って。

 だから僕は、シャンバラを目指すのはやめた。

 13色のオーラのことについても、その老人が教えてくれた。

 シャンバラに行かなくても、オーラを鍛えることはできる。

 それに…。」

「それに?」

「その先があるかもしれないって、僕は思った。」

「その先?」

「13色のオーラの、その先だよ。

 もっともっと大きな自分に出会いたいんだ。

 何だってできるようになりたいし、何にでもYESと言えるようになりたい。

 神が全知全能だというのであれば、

 僕は神をも超えたい。いずれはね。

 そして、もっといい世界を造りたい。

 スピリチュアルな人たちは、『世界は素晴らしい』というけど、

 僕にはそうは思えない。

 たしかに色んなことが経験できるし、花や海は美しいよ。

 けれども、

 この世界は悪人に甘く、そして善人に対して無情すぎる。

 死んだ後に、善人には報いがあり悪人には裁きがあるというけど、

 それが本当かはわからないし、

 死ぬ前に報いや裁きがないと、誰も善悪から教訓を学ばないよ。

 だから600万年も輪廻転生が終わらないんだと思う。

 プレーヤーがだらしないのもあるけど、ゲームにも欠陥がある。ずいぶんと。

 別に神を侮辱する気はないけど、神は最高ではないさ。そう感じる。

 今の世界は、善人がバカを見る世界さ。正義は負けて悪人が勝ってしまう。

 それだとどうしても、悪人が増えてしまうさ。誰も努力をしたがらないさ。

 僕は、もっと平和で良心的な世界を造りたい。

 僕から見れば、神は全知全能じゃないし、あまり優しくない。

 まだその上を目指せるんじゃないかと感じてしまうんだ。」

すごいわ…!こんなにはるか上を見ている人って、初めて見た!

私も一緒に、世界の果ての、そのまた果ての、さらにその果てを見たい。


私は言葉を探した。

「つまり、いろんなこと出来るようになりたいってわけね?」

「そうだね。」

「ひとのこと言えた身でもないんだけど…」

「なんだ?」

「あのう…、

 あのね?

 キスのスキルも、磨いておいたほうがいいんじゃない?」


チュっ♡


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2017/04/28完筆


『ミシェル2 -世界の果て-』 


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